オリジナル小説&エッセイ


by 1000megumi
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<   2005年 06月 ( 3 )   > この月の画像一覧

桜幻 8



 唖然、呆然、愕然といったところか。蘭丸には春乃の答えが予想外でショックだったようだ。
 春乃の母・春菜が未婚の母で、医学上の父親が『どこの馬の骨かわからんヤツ』と親戚中に言われ、春乃の祖母の猛反対にあい、無理矢理引き裂かれてしまったとか。その類の噂は公然の秘密となっていたから、春乃も小さい時から知っていた。でも、いくらなんでも、名前まで知らないと、蘭丸は思っていたに違いない。親戚連中はいろいろ噂するが、肝心な相手の名前は一度も口にしたことはなかった。それは蘭丸も知っている。だから、春乃があっさり言ったのでビックリしたのだ。
「何で知っているんだ?」
「認知されているもん」
 ガックリ。
 文字道理うなだれた。
「まさかと思うけど、それが、気を遣って避けていた理由?」
 コクコクと蘭丸は素直に頷く。
(バッカみたいッ。たかが、そんなことで…)
 情けないっていたら情けないッ! 私がそんな女に見えるのかしら? 自分の出生を知って、『あぁ、私ってなんて不幸なんでしょう』みたいに、窓から夜空を月を星を見上げて嘆くような、そんな安っぽい馬鹿な女に…。ウゲェー、吐き気がする。私はそんな女じゃない。そんな何も知らないで、大事に大事に世間の俗世に触れさせないで育てられた子供じゃない。母親のふしだらさを聞かされ、存在しなくていい存在と言われ続け、ひねくれた性格で、そんな女から遠くに離れているのよ。いまさら、しかも蘭丸の前で、かわいこぶりっこして『知らなかったわ、父親が陸海なんて…。なんて皮肉な運命なんでしょう』とでも言えって? 『私どうしたらいいのかしら』蘭丸にすがりつけって? それとも、『そんなのウソよッ!』と取り乱せって? ケッ! 考えただけで胸糞悪いぜっ!
「蘭丸。まさかそれだけじゃないでしょうね?」
 ふつふつと湧き上がる怒りにまかせて、蘭丸を怒鳴りつけたくなったが耐えた。
(まだ、大丈夫。まだ、冷静でいられる)
 自分に言い聞かせて気持ちを出来るだけ落ち着かせた、が。
「悪いな、春乃。それがジョーカーだ」
 蘭丸のその言葉で怒りが弾けた。
 ぬぁにぃぃぃぃぃぃぃぃ――。
「ぶぁっかぁもんッ!」
 そこがレストランで、周りに店の人も客もたくさんいることを忘れ、後で恥ずかしい思いをするほどの大声で蘭丸を怒鳴りつけた。
「能無しッ! 役立たずッ!」

 殴り込みだ。
 そんな物騒な噂はあっという間に広まった。

 華櫻の温室でお気に入りの音楽をBGMに春乃が食後の紅茶を楽しんでいると、杉原がやってきた。
「水ノ宮に何しに行くんだ? 殴りこみか?」
 椅子に座りながら春乃に話しかける。
「殴りこみなんかしないわよ」
「だろうな。おまえはそんなガラじゃねぇもんな。殴り込みじゃなければ、何だ?」
「お話」
「相手にされんのか?」
「するわよ」
 じぃーっと考え込むように春乃の顔を見つめる杉原。
 どうゆう結論をだすのか。
「何か握ってんのか?」
 ごく普通の予想された結論だった。
 大体はそういう風に考えるだろう。ただの女子高校生が仕手グループの社長と張り合おうなんて考えないだろう。世間から見て、接点のない二人だから。
「ちょと、気になることがあってね。質問したいことがあるの」
「質問? それだけか?」
「そうよ。とりあえず、それだけ」
「なるほどね」
 疑わしい目で、春乃を見ていた。


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by 1000megumi | 2005-06-23 16:37 | 小説 桜幻(完結)

桜幻 7



 春乃が話を作っているとタカをくくっていた蘭丸だが、実際に裏庭に金庫が転がっているのを見て、頭を抱え込みたくなった。
「いつだ?」
「先週の木曜日よ」
「所轄に連絡はしたのか?」
「しないわよ。身内の恥だから、お母さまは嫌がると思うし…」
「中身は?」
「翌日、貸金庫に預けたわ」
「春菜さんは知っている?」
「うーん。知らないかもしれないし、知っているかもしれないし…」
 蘭丸は苦笑いしながら六十キロ近い金庫を春乃の指定する位置に運んだ。
「さすが男ね~」
 パチパチと拍手をして感心する春乃。
 だけど、すぐに顔つき変わった。
「さて、サクサクと白状してもらいましょうか」
「恐いな~」
「あら~? 蘭丸次第でしょう?」
「わかった、話すよ」
 両手を挙げて降参のポーズを取る蘭丸に早く話せと春乃はせっついたが、所轄が先だと先延ばしにされた。
 それとなく身内の犯行だと臭わせながら、所轄でも交番でも見回りを強化するように話す蘭丸の隣で、困った申し訳なさそうな顔と笑顔を巧みに作り上げた春乃は、警官を骨抜き状態にしていた。
「魔性の女に見えたぞ」
 二人お気に入りのレストランで注文をすませてから、しみじみと蘭丸は言う。
「ホステスになれば売れっ子になるんじゃないのか?」
「じゃあ、キャバクラでバイトでもしようかな~」
 しれっと春乃は答える。
 身包みはがされそうだと苦笑する蘭丸に、春乃は真面目に言った。
「華櫻の生徒にバレちゃって…。蘭丸、情報ちょうだいよ」
「情報って言ってもなぁ。何もないよ」
 じっと蘭丸を見つめると、春乃はキッパリ言い切った。
「ウソをついている」
「ついていないよ」
「ついているわ」
 静かに、しかし力強く言う春乃の迫力に、たじろぎそうになる。
「ないないない…」
「蘭丸ってポーカーフェイスが下手よ」
 あまりな指摘に言葉が詰まった。
 蘭丸は決してポーカーフェイスが下手なわけではない。一々顔に出ていたら刑事は務まらず、同僚の中でも抜きん出て読めないと言われている。
 それなのに春乃に通用しないのは刑事以前からの長い付き合いで、春乃が見抜ける人間だからだろう。
 互いに互いの性格はよく知っている。
 仕方なく、蘭丸は白旗上げることにした。押し切られるのは時間の問題で、無駄なことは省略するに越したことはない。
 しかし、悪足掻きはしてしまう。蘭丸にとって、すんなり話せる内容ではないのだ。
「わかった。話せばいいんだろう?」
「そうよ。チャチャッと、白状してね」
 期待に満ちた春乃の視線は痛かった。蘭丸が持っている情報は、知ったからといって役に立つようなものには思えないからだ。それどころか、いくら春乃でも、ショックを与えることであろう。そんな内容である。
「春乃。人間誰にだって知られたくない過去の一つや二つはあるんだ」
「前置きはいい」
 おもむろに話し出した蘭丸に、春乃はそっけなく言う。
「誰にでも青春時代があって、若いときは特に間違いを起こすものだよ。後で後悔することもある」
「だから、前置きはいい」
「若いときの過ちなんて、風邪みたいなものだ。いつでも恋愛はちょっとしたきっかけで、それが――」
「何度も同じこと言わせないでよ。前置きはいいから、本題に入れっ」
 有無を言わせない迫力で、蘭丸の長くなりそうな前置きを遮った。
「あのな、春乃。おまえさ、そのー、なんだな…」
 ため息をつきながらも、話そうと試みるが言葉はうまく選べなくて、しどろもどろになってしまう。
 蘭丸らしくない歯切れの悪い言い方にムッとしながら、春乃は強く催促した。
「スパッと言ってよ。スパッと」
「わかった」
 そう言った蘭丸に胡乱な視線で春乃は応えた。
 今の蘭丸は当てにならい。のらりくらりと逃げようとするのではないかと警戒をあらわにする。
「春乃。おまえは自分の父親のことを知っているか?」
「私の医学上の父? 知っているわよ、そんなの。陸海でしょ?」
 春乃の言葉に蘭丸の動きは止まった。


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by 1000megumi | 2005-06-13 22:31 | 小説 桜幻(完結)

桜幻 6



「遠い親戚とはいえ親戚なのだから、困っていたら助けてくれたっていいじゃない! 桜城家の事情を知っているのに、電話の一本寄越さないんですよ!」
「春乃、村上さんから手を離して…」
「君、落ち着いて…」
「蘭丸の薄情者! 私に魑魅魍魎妖怪変化の化け物の餌食になれって言うのッ!」
「いったんそこに座りなさい、ほら…」
「何もそこまで言わなくて…。春乃、落ち着いて。ちゃんと聞いてあげるから」
 二人で宥めにかかるが春乃はますますテンションをあげていった。
「桜城家の人間なんて化け物以外の何もでもないじゃない!」
「仮にも親戚…」
「親戚だからって何よ! 知っているでしょ! あの欲塗れの俗物たち!」
「言いたいことはわかるよ」
「おい、誰か婦警呼んで来い」
「南条がそこにいますよ」
「ウソよ、わかってないッ! 連絡寄越さないくせにッ!」
「南条、頼むよ」
「そんなこと――」
「本気にしてないんでしょ!」
「お茶でも飲めば落ち着くと思いますよ」
「わかったから、落ち着いて」
「桜城家から犯罪者が出てもいいんだ! そうよね、蘭丸は桐島の人間で、桜城家は遠い親戚で、親戚ってわけじゃないからね!」
「じゃあ、コーヒーでも」
「春乃ちゃんはコーヒーは好きではありませんよ」
「おい、南条」
「大げさな…」
「大げさでもなんでもないわよ!」
 春乃は爆弾発言をする。
「この間なんか、幸男叔父さまが正宗を持ち出そうとしていたのよ!」
「――――」
 蘭丸の顔が引き締まった。
 正宗。刀剣の名刀である。
 蘭丸は春乃を引き寄せ、抱き締めた。
 周りは唖然としたように、二人を見ている。
「正宗って、虎徹と並んで人気のある、正宗ですか?」
 蘭丸の相棒である南条綺湖が控えめに聞いてきた。
 蘭丸は苦笑しただけで答えなかった。
 ぎゅっと抱き締めていた蘭丸は、背中を撫でてから春乃を解放する。
「少しは落ち着いたか?」
「ええ、まぁ」
 春乃はちょっと驚いていた。
 人前で抱き締められるとは思っていなかったからだ。気が殺がれる形となったが、蘭丸が本気で捉えているようなので、そのことは嬉しかった。
「で、どうなった?」
「幸男叔父さまに言ったのよ。叔父さまが持っていても、銃刀法違反で捕まるだけよって」
「それで?」
「取ったもの置いて帰るように言ったら、素直に従ったわ」
「――防犯に気をつけたほうがいいですね」
「うーん。あの家は建て替えないことには無理だな」
「有害駆除用の罠を仕掛けようかと思ったけど、買うのに有害駆除許可書が必要だったから諦めたのよね」
「物騒なもの仕掛けるなよ」
「手作りでトラップ仕掛けようかしら?」
「私有地でしたら仕掛けても…」
「おい、あやちゃん煽るなよ」
「何も盗まれていないか確認したのか?」
「ええ、毎日チェックしています。今年になってからは一応ないですね」
「今年になってからはないって、そんなに頻繁にあるのか? 桐島、何とかしれやれよ」
「そうよ。何とかしてよ」
「村上さん、口挟まないでくれ」
「可哀想じゃないか」
「とりあえず、裏庭にある金庫を動かして欲しいなぁ~」
「はぁい?」
「金庫を動かして欲しいの」
「どこにあるって」
「裏庭」
「何でそんなところにあるんだ」
「誰かが盗み出そうとして力尽きたんじゃないの?」
「…………」
 蘭丸は頭を抱えてしゃがみこんだ。
「桐島」
 事の成り行きを見守っていた課長が、踏ん反り返ったまま横柄に言った。
「今日は帰っていいぞ。ちゃんと相談に乗ってやれ」
「しかし…」
 すくっと立ち上がり言い出した蘭丸を遮って、課長は言葉を続けた。
「とりあえず、所轄に話を通して見回りを強化してもらえ」
 ラッキー♪
 そんな春乃の声が聞こえそうだ思いながらも、蘭丸は上司の命令に逆らえず、同僚たちに見送られて刑事部屋を出た。


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by 1000megumi | 2005-06-01 15:58 | 小説 桜幻(完結)