オリジナル小説&エッセイ


by 1000megumi
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カテゴリ:小説 悪女(連載中)( 5 )

悪女 目次



警視庁の一課に所属する南条綺湖は、担当を離れた事件のことで独自に調査していた。
それは事件の容疑者であり被害者でもある少女に何かをしてあげたかったからだ。
何も出来ず、自己満足に過ぎないとわかっていたが、綺湖の過去が行動を突き動かす。
そして、一人の男と出会い、思いもよらぬ事件へと進展する。



  



南条綺湖(なんじょうあやこ)
   警視庁の捜査一課に所属。
   過去の出来事で、モノの考え方が刑事としてズレている。

南条修一(なんじょうしゅういち)
   綺湖のイトコで四課の課長。

長谷川(はせがわ)
   富樫組の準幹部。
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by 1000megumi | 2010-04-08 08:48 | 小説 悪女(連載中)

悪女 3

 綺湖が取調べを始めて五日目。
 奈津美は泣いた。
 青ざめ、振るえ、恐怖に慄き、泣いた。

 八日目。
 奈津美は罵った。
 激情に身をまかせ、般若のごとき形相で、理不尽に怒り、罵った。

 話す奈津美もつらかったが、聞いている綺湖たちもつらかった。仕事とはいえ、つらかった。
 ただ、話し終えた奈津美が。
「ちょっと、すっきりした。ちょっとだけだけど……」
 その言葉が、綺湖たちにとって、救いだった。
 奈津美の心をこじ開けたことは、無駄ではなかったと、思えたから。

 その後は、処理の仕方で揉めた。
 強姦されたことをどう考慮するか。
 奈津美はそのことで裁判を起こすことも可能であり、殺人事件の裁判でも持ち出される可能性もある。奈津美が伏せておきたいというなら状況も変わってくる。
 検事の人柄によってまた、状況も変わるだろう。

 綺湖は奈津美の担当から外れた。
 奈津美のことは刺さった棘のように、綺湖の心を痛めた。
 彼女に何をしてあげられるだろうか。
 現実には何もしてあげられない。それくらい、わかっていた。
 だけど、綺湖は何かしたかった。
 だから、奈津美をレイプした犯人を捜し続けた。ただの自己満足に過ぎないとわかっていても。
「綺湖」
 警視庁で綺湖を名前で呼び捨てにする人の数は少ない。父兄及び親戚、数名ほどしかいない。
「何ですか? 修一兄さん」
 兄さんと呼んだが兄ではなく、十三も年上の従兄だ。強面の四課の課長である。
 手招きに応じて四課に入ると、修一を含めて三人しかいなかった。
 修一は椅子に座ると、膝の上に綺湖を座らせた。
 ジロジロ眺めた後、呟いた。
「うーん。いつ見ても美人だな」
 身内の贔屓目を差し引いても、綺湖は美人だった。こぢんまりとした顔は人形のように愛らしいく整っており、肌は色白できめ細かく、髪は黒々と輝いている。
 実年齢より若く見られるが、捜査上それは軽んじられることが多く難点だ。
「セクハラですよ」
「イトコでもか?」
「父でも兄でも、職場でも家でも」
「怖いな……」
「四課の刑事が?」
「四課の刑事でも」
「父が? 兄が? それともセクハラで訴えられるのが?」
「可愛い小悪魔が」
「それは、誰のことですか?」
「俺の目の前にいる……」
 綺湖は睨みつけだが、修一はヘラヘラ笑っていた。それは四課の強面には見えず、スケベ親父そのものだ。
「……用件を、伺いましょうか」
「うん? ああ、何を嗅ぎまわっている? 只見課長は知っているのか?」
 綺湖は考えるフリをした。
「四課の領域に踏み込むような事件にはかかわっていませんが?」
「アビー。あの店は麻取も張り付いているぞ」
 知っていたのか? 問われて、答えずに考えていた。
 四課の刑事全員を覚えてはいなかったが、そんな感じのする人がいたのは確かだ。それ以外に判断のつかない人がいた。たぶんその人が麻薬取締官なのだろう。
「二度と行くな」
「仕事の邪魔はしませんよ。プライベートですから……」
「そうじゃなくて……」
 困ったように修一は唸り、じっと綺湖を見つめた。ヤクザも怖がる、抉るような視線で。
 しかし、綺湖には通用しない。長年の付き合いのせいか。
 理由もわからずに引く気がないことを見取ると、修一は盛大にため息をついた。
「カウンターに座っていた男、話しかけてきたほうじゃない。その男、覚えているか?」
「ええ、三十前後……」
「富樫組の準幹部だ。綺湖に興味持ったようでな、だから、近づかないで欲しい」
「私は話しかけてきた男の方に用があるのです。他の男にではありません」
「そいつは、子飼いだ。長谷川が絡んでくる」
 その男は長谷川というのか……、使えるかもしれない。
 綺湖は修一のミスを有難く思った。



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by 1000megumi | 2010-04-08 08:43 | 小説 悪女(連載中)

悪女 2

 取調室は湿った匂いが漂っていた。それだけで気が滅入りそうになる。
 綺湖は容疑者の前に立つと、柔らかな声音で言った。
「こんにちは。これから私が担当することになりました。南条綺湖です。むさ苦しいのに囲まれるのは嫌でしょう? 男性出入り禁止にしたの。気楽にしてね」
 やつれた顔で、綺湖を見上げていた。
 何も、言葉はない。
 机を挟んで綺湖は椅子に座った。
「何から聞こうかしら? 今まで聞かれたことと同じ事を聞くと思うけど、気を悪くしないでね。答えたくなかったら、答えなくてもいいの。黙秘権というものがあるから…」
 伸びた前髪が陰を作り、表情をわかりにくくしている。
「まず、名前は?」
「──和田奈津美」
「奈津美ちゃんね、年齢は?」
「──十七」
「高校二年生ね」
「……」
「部活はしていた?」
「──吹奏楽部」
「何を担当していたの?」
「──フルート」
「いいわね、フルート。友達はたくさんいた?」
「─それなりに…」
「仲のいい子は?」
「──いたけど…」
「何でも相談できた?」
「………」
「何でもってことはないか。秘密の一つや二つ、あってもおかしくないものね」
「………」
「──奈津美ちゃん。友達にも言えない、家族にも言えない、あなたの秘密、私に話す気ない? 少しは気が楽になるかもしれないわよ」
「………」
「もし、言ってもいいかなって思ったら、話せる範囲でいいから聞かせてね」
「………」
「質問の続きね。学校は楽しかった?」
「──部活は大変だけど楽しい」
 それから事件には触れず、奈津美の日常生活に関して質問し続けた。
 奈津美は淡々と、そして、時折楽しそうに話した。

 休憩を何度か挟んで、その日の取調べが終わると、笠間がせっかちに聞いてきた。
「どうだ? 落とせるか?」
「まだ、なんとも…」
「なんだぁ。おまえでも無理か…」
 どうしてこう、早急に答えを出したがるのだろう。綺湖が男だったら笠間の言い方も、変わっていたに違いない。
 男社会というより、個人の性格によるものだろう。しかし周りにいる男性は、心の狭い偏見に満ちた思考の持ち主が多く、綺湖はうんざりしていた。
 女というだけ、見下ろされる。
 女は、バカで、感情的で、理性がなく、図太く、そのくせ庇護される立場だと思い込んでいる。見栄えのいいほうがよくて、頭より顔で、顔より身体で、判断する。
 バカなのは、男たちのほうだ。
 その時女が、何を考えていたのか、何を感じていたのか、考えようとしない。
 男は、アホで、動物的で、理性がなく、多くのモノを要求する。繊細なフリして無神経で、自分たちの欲望を棚に上げて、男は外見より心だと豪語する。
「笠間さんは…」
「ん?」
 綺湖はイヤミが言いたくなった。
 たとえ通じなくても。
「カウンセリングの勉強をした方がいいですよ。もしくは、心理学を」
 あからさますぎて、効果覿面。
 笠間はムッと、口をへの字にした。



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by 1000megumi | 2006-12-27 16:29 | 小説 悪女(連載中)

悪女 1



 メッタ刺しの殺人事件が発生してから一週間。捜査は意外と簡単に終結しそうな雰囲気であった。
 容疑者として事情聴収を受けていた女子高校生が犯行を認めたからだ。
 サバイバルナイフをインターネットで購入し、夜十時ごろ被害者が一人暮らししているマンションに行き、被害者が帰宅するのをひたすら待っていたという。帰宅直後に部屋を訪ね、上がり込むなり刺した。そのように、自供した。
 動機については一言も話していないが、落ちるのは時間の問題だろう。
 それが大半の見方だ。
 被害者の大学生と容疑者の女子高校生との関係がつかめていなかったが、友人に紹介されたかナンパされたか、もしくは出会い系サイトで知り合ったか、どれかだと推測されていた。あれだけ刺しているのだから、よほどの恨みがあったに違いない。それなら周りの家族や友人が、ある程度は動機となる何かを知っていてもおかしくない。
 証拠は簡単に集められそうで、捜査本部は緊張から解放されていた。
 だが、簡単には終結しなった。

「南条、来てくれないか」
 容疑者の取調べをしていた笠間から声をかけられた南条綺湖は、おやっと思った。
 笠間には嫌われているので直接声をかけられることはなかったからだ。
 何事かと思って綺湖は近寄った。
「頑なでな、どうもオレじゃあ、無理みたいだ。南条はどうだ? 同じ女だろ、落とせるか?」
 嫌なヤツ…と、綺湖は思った。
 同じ女。それに、どんな意味を込めてこの男は言っているのだろう。
 犯罪に男も女もない。同様に、容疑者を落とすのに、男も女もない。どれだけ相手の心に入り込めるか。
 笠間には無理だと綺湖は始めから思っていた。
 容疑者の心理が見えていないからだ。
 綺湖の推測が正しければ、容疑者はレイプされている。それが動機だと、感じていた。
「どうでしょう。やってみないことにはわかりません」
「ちょっと、やってみるか?」
 やってみるか? じゃなくて、代わりにお願いしますだろ、と綺湖は内心突っ込みを入れる。
「そうですね、条件を飲んでくださるのでしたら…」
「条件?」
 胡乱な視線を隠しもせず笠間は綺湖を見た。
「ええ、条件」
「何だ」
「取調べ中は男性立ち入り禁止」
「おまえ…、何か知っているのか?」
「さぁ、何も。笠間さんみたいな怖い顔がいたら、言いたくても言えないのではないかと思って…」
「──わかった」
 不機嫌そうな低い声だった。



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by 1000megumi | 2005-09-24 20:31 | 小説 悪女(連載中)

悪女 目次



警視庁の一課に所属する南条綺湖は、担当を離れた事件のことで独自に調査していた。
それは事件の容疑者であり被害者でもある少女に何かをしてあげたかったからだ。
何も出来ず、自己満足に過ぎないとわかっていたが、綺湖の過去が行動を突き動かす。
そして、一人の男と出会い、思いもよらぬ事件へと進展する。



  



南条綺湖(なんじょうあやこ)
   警視庁の捜査一課に所属。
   過去の出来事で、モノの考え方が刑事としてズレている。

南条修一(なんじょうしゅういち)
   綺湖のイトコで四課の課長。

長谷川(はせがわ)
   富樫組の準幹部。
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by 1000megumi | 2005-09-24 20:22 | 小説 悪女(連載中)