桜幻 6



「遠い親戚とはいえ親戚なのだから、困っていたら助けてくれたっていいじゃない! 桜城家の事情を知っているのに、電話の一本寄越さないんですよ!」
「春乃、村上さんから手を離して…」
「君、落ち着いて…」
「蘭丸の薄情者! 私に魑魅魍魎妖怪変化の化け物の餌食になれって言うのッ!」
「いったんそこに座りなさい、ほら…」
「何もそこまで言わなくて…。春乃、落ち着いて。ちゃんと聞いてあげるから」
 二人で宥めにかかるが春乃はますますテンションをあげていった。
「桜城家の人間なんて化け物以外の何もでもないじゃない!」
「仮にも親戚…」
「親戚だからって何よ! 知っているでしょ! あの欲塗れの俗物たち!」
「言いたいことはわかるよ」
「おい、誰か婦警呼んで来い」
「南条がそこにいますよ」
「ウソよ、わかってないッ! 連絡寄越さないくせにッ!」
「南条、頼むよ」
「そんなこと――」
「本気にしてないんでしょ!」
「お茶でも飲めば落ち着くと思いますよ」
「わかったから、落ち着いて」
「桜城家から犯罪者が出てもいいんだ! そうよね、蘭丸は桐島の人間で、桜城家は遠い親戚で、親戚ってわけじゃないからね!」
「じゃあ、コーヒーでも」
「春乃ちゃんはコーヒーは好きではありませんよ」
「おい、南条」
「大げさな…」
「大げさでもなんでもないわよ!」
 春乃は爆弾発言をする。
「この間なんか、幸男叔父さまが正宗を持ち出そうとしていたのよ!」
「――――」
 蘭丸の顔が引き締まった。
 正宗。刀剣の名刀である。
 蘭丸は春乃を引き寄せ、抱き締めた。
 周りは唖然としたように、二人を見ている。
「正宗って、虎徹と並んで人気のある、正宗ですか?」
 蘭丸の相棒である南条綺湖が控えめに聞いてきた。
 蘭丸は苦笑しただけで答えなかった。
 ぎゅっと抱き締めていた蘭丸は、背中を撫でてから春乃を解放する。
「少しは落ち着いたか?」
「ええ、まぁ」
 春乃はちょっと驚いていた。
 人前で抱き締められるとは思っていなかったからだ。気が殺がれる形となったが、蘭丸が本気で捉えているようなので、そのことは嬉しかった。
「で、どうなった?」
「幸男叔父さまに言ったのよ。叔父さまが持っていても、銃刀法違反で捕まるだけよって」
「それで?」
「取ったもの置いて帰るように言ったら、素直に従ったわ」
「――防犯に気をつけたほうがいいですね」
「うーん。あの家は建て替えないことには無理だな」
「有害駆除用の罠を仕掛けようかと思ったけど、買うのに有害駆除許可書が必要だったから諦めたのよね」
「物騒なもの仕掛けるなよ」
「手作りでトラップ仕掛けようかしら?」
「私有地でしたら仕掛けても…」
「おい、あやちゃん煽るなよ」
「何も盗まれていないか確認したのか?」
「ええ、毎日チェックしています。今年になってからは一応ないですね」
「今年になってからはないって、そんなに頻繁にあるのか? 桐島、何とかしれやれよ」
「そうよ。何とかしてよ」
「村上さん、口挟まないでくれ」
「可哀想じゃないか」
「とりあえず、裏庭にある金庫を動かして欲しいなぁ~」
「はぁい?」
「金庫を動かして欲しいの」
「どこにあるって」
「裏庭」
「何でそんなところにあるんだ」
「誰かが盗み出そうとして力尽きたんじゃないの?」
「…………」
 蘭丸は頭を抱えてしゃがみこんだ。
「桐島」
 事の成り行きを見守っていた課長が、踏ん反り返ったまま横柄に言った。
「今日は帰っていいぞ。ちゃんと相談に乗ってやれ」
「しかし…」
 すくっと立ち上がり言い出した蘭丸を遮って、課長は言葉を続けた。
「とりあえず、所轄に話を通して見回りを強化してもらえ」
 ラッキー♪
 そんな春乃の声が聞こえそうだ思いながらも、蘭丸は上司の命令に逆らえず、同僚たちに見送られて刑事部屋を出た。


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by 1000megumi | 2005-06-01 15:58 | 小説 桜幻(完結)