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オリジナル小説&エッセイ


by 1000megumi
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桜幻 5



 蘭丸は確かに外出中だった。刑事部屋にいる人たちの好奇心な視線の中、春乃はズーズーしくも、その刑事部屋で待たせてもらうことにした。応接室でと言われたが断った。下手すると蘭丸に逃げられるからだ。
 蘭丸は春乃を見ると、しまった! やられた! という顔をしたが、すぐにいつものおちゃらけに戻った。
「春乃。どうした? 久しぶりだな。そんな恐い顔しているとせっかくの美人が台無しだぞっ♪」
 歌うように話しかけてきた蘭丸に、とりあえず微笑んだ。
「本当に久しぶりね。連絡取りたくても取れなくて困っていたのよ。蘭丸ったら私のこと避けているんですもの」
「仕事が忙しくてね。寂しい思いをさせて悪かったな」
 先程とは違い、二枚目を演じる蘭丸に春乃は冷笑で応えた。
「あら、寂しくなんかなかったわよ。退屈しのぎの男はいくらでもいるの」
 みんな聞き耳を立てている。面白がっているのか、呆れ返っているのか。
 春乃は華櫻の制服であるセーラー服を着ているし――これなら一発で学生と判る――顔は童顔だから、なおさら言っているセリフとのギャップが感じられるのだろう。
「春乃はもてるからね」
「蘭丸もね。あぁ、それで忙しかったのか。仕事なんて格好つけないで、デートで忙しいって素直に言えばいいのに。独身最後の春を楽しんでいたのね」
「おぢさんは真面目に仕事していたぞ」
「ウソはドロボーの始まりでしょ? 刑事なのにいいの? 相棒の綺湖さんとは連絡取れるのに、なぜ、蘭丸とは連絡取れないのかしら? 正直に認めたら? 私のことを見捨てて、女にうつつを抜かしていたって」
「人聞きの悪いこと言うな」
「言わせないでよ」
 春乃の正面から蘭丸に微笑んだ。
「ゲームオーバーにならないうちにゲームの本戦始めるから、手持ちのカードを見せてちょうだい」
「勇ましいな、春乃は…」
「蘭丸がいつまでも逃げているからでしょ」
「後でゆっくり聞くから…」
「いやよ、後でなんて」
「仕事中だから、終わったら家に行くから。な?」
 どうにか宥めて春乃を帰そうと、機嫌を取るように優しげに蘭丸は話しかける。
「終わるまでここで待っている」
「家で待ってなさい。終わったら必ず行くから」
「私のことは気にせずにお仕事していいわよ。おとなしく、ここで、待っているから」
 春乃は引く気はなかった。
 ここに来たのも、ここにいるのも、周りを巻き込んで蘭丸から情報を引き出すつもりでいるからだ。そうでもしないと、蘭丸はのらりくらり逃げ回るだろう。上司の許可を取り付けて、仕事中の蘭丸を借り出すつもりでいる。
「春乃。分別のわかる年齢だろう? そうゆう我儘は言わないでくれ」
「蘭丸信用ないもん。電話一本寄越さないじゃないっ。絶対ここで待っているッ。それがダメなら、サクサク白状しなさい!」
「春乃、話は後でゆっくり聞くから…」
「蘭丸冷たい! もしかして、戦線離脱する気なの? そんなの許さないからね!」
「春乃。落ち着いて…」
 徐々にヒステリックになる春乃の扱いに蘭丸は困った。それが、演技だとわかっているが周りはそうだとは取らない。人がいなければ無視するところだが、それは出来なかった。
「大体蘭丸はッ!」
「桐島、こちらのお嬢さんは…?」
 さらに言い募ろうとした春乃は、割り込んできた声にラッキーと内心喜んだ。
「――親戚の子です」
「桜城春乃と申します」
 春乃はにこやかな笑顔で挨拶をした。
「君は中学生かな?」
「高校生です」
「ここがどういう場所がわかるよね?」
 諭すように話しかける男に春乃はわかっているというように頷いたが、チャンスだとしか思っていなかった。これで爆裂トークの爆弾発言で、春乃の思っているところへ転がるはずだ。
 この男に絡んで、蘭丸を借り出してやる!
「いったん応接室にでも…」
 とりあえず刑事部屋から引き離そうと言い出した男に、春乃は訴えかけた。
「別に仕事の邪魔するつもりはないんです。みなさんに迷惑かけるつもりだってありません! けど、蘭丸が、全然連絡くれないんでよ。こーするほかないじゃないですか! 私がこの一ヶ月もの間、どんな思いでいたのか、この男は、全然わかってないんですよ!」
 ガシッと男のスーツの二の腕部分を握り締め、蘭丸を指差しながら唾を飛ばす勢いで喋り続けた。


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by 1000megumi | 2005-05-21 14:16 | 小説 桜幻(完結)