失踪 10
2005年 04月 10日
うっそうと繁った木々は、二葉に威圧感を与えていた。
幾重にも影を作り、奥が見えず、暗闇に引き摺り込まれるような気がする。
一瞬、恐いと思ったが気持ちを奮い立たせ、四方堂家の門へ向かって歩き出した。
遥に描いてもらった地図では、すでに私有地に入っている。道なりに行けば、石の支柱だけの変わった門があるはずだ。
遥に言わせれば、そこには結界がはっており、目に見えぬ門が存在するらしい。
あまりにも、その結界の向こう側が恐く感じて、門をくぐることは出来なかった。門をくぐったら最後、二度と出て来られなくなると思ったという。
行けば言っている意味がきっとわかると遥は言っていた。二葉にも霊感があるから、見えるはずだと。
しかし、凛や遥のように霊感があるとは二葉は思えないでいた。
凛が見えていたものが見えたことはない。
遥のように、唐子を飛び出させることは出来ない。
見たのは、あの茶室の一件だけだ。
遥に感じた何かを感じ取れるのだろうか。
まったく不安がないわけではない。
四方堂家を尋ねることが必ずしも問題解決なるわけではない。
だが、二葉にはそれしか方法がないような気がした。
突如、視界は開け、広場のように何もないところに出た。そこには真ん中に、石支柱が二本立っていた。
二本の石支柱の間は二間の幅があり、北へと道が続いている。
二葉は南側から石支柱を眺めた。
何がどう違うのかはわからない。だけど、言葉に出来ない何かを感じ取っていた。
門をくぐったら最後、二度と出て来られなくなると思い、恐ろしくて門をくぐれなかったと遥が言っていたが、その言葉が分かるような気がした。
石支柱の間の空間におどろおどろしさが漂っている。
かかわりたくない。
帰りたい。
そう思わずにはいられない、何かがある。
二葉の心に、迷いが生じる。
凛も鷹臣も全て忘れて、旦那のもとに帰ってしまえばいい。
一連のことを気のせいだったと思えばいい。
凛のことは綺麗な思い出にしてしまえばいい。
もう一人の二葉が耳元で囁く。
それでいいのか。
逃げ出したままでいいのか。
自分さえ良ければいいのか。
凛を見捨てるのか!
その声たちは反響し、体中を駆け巡った。
忘れろ、忘れろ、忘れてしまえ。
浮気相手など忘れてしまえ!
分が悪くなったら親友さえ切り捨てる、おまえは都合のいい親友だな。
凛のことを思い出にしてしまうのか。
自分から面倒に巻き込まれることはない。
十二年前に十分探したじゃないか。
あの時、やれるだけのことはしたじゃないか。
蒸し返してどうなる。
いなくなった相手など忘れてしまえ。
凛を見捨てるのか、もう一度、見捨てるのか!
また、後悔するのか!
二葉は瞼を閉じると、自分の心に問いかけた。
私はどうすればいいのだろう。
私はどうしたいのだろう。
ザワザワ梢を鳴らし、風が通り抜ける。
凛のことを知りたい。
凛の失踪の真実を知りたい。
沸き起こった思いに決意し、二葉は瞼を上げた。
そして、二葉が見たものは。
石支柱の間に佇む、鷹臣。
「よくここに来たね」
以前と同じにこやかな表情が、二葉には作り物に見えた。
この人が、私から凛を奪った人だ!
直感は警告を鳴らし続けていたが、二葉はそれを無視して鷹臣に歩み寄った。
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by 1000megumi
| 2005-04-10 21:55
| 小説 失踪(完結)