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オリジナル小説&エッセイ


by 1000megumi
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失踪 10



 うっそうと繁った木々は、二葉に威圧感を与えていた。
 幾重にも影を作り、奥が見えず、暗闇に引き摺り込まれるような気がする。
 一瞬、恐いと思ったが気持ちを奮い立たせ、四方堂家の門へ向かって歩き出した。
 遥に描いてもらった地図では、すでに私有地に入っている。道なりに行けば、石の支柱だけの変わった門があるはずだ。
 遥に言わせれば、そこには結界がはっており、目に見えぬ門が存在するらしい。
 あまりにも、その結界の向こう側が恐く感じて、門をくぐることは出来なかった。門をくぐったら最後、二度と出て来られなくなると思ったという。
 行けば言っている意味がきっとわかると遥は言っていた。二葉にも霊感があるから、見えるはずだと。
 しかし、凛や遥のように霊感があるとは二葉は思えないでいた。
 凛が見えていたものが見えたことはない。
 遥のように、唐子を飛び出させることは出来ない。
 見たのは、あの茶室の一件だけだ。
 遥に感じた何かを感じ取れるのだろうか。
 まったく不安がないわけではない。
 四方堂家を尋ねることが必ずしも問題解決なるわけではない。
 だが、二葉にはそれしか方法がないような気がした。
 突如、視界は開け、広場のように何もないところに出た。そこには真ん中に、石支柱が二本立っていた。
 二本の石支柱の間は二間の幅があり、北へと道が続いている。
 二葉は南側から石支柱を眺めた。
 何がどう違うのかはわからない。だけど、言葉に出来ない何かを感じ取っていた。
 門をくぐったら最後、二度と出て来られなくなると思い、恐ろしくて門をくぐれなかったと遥が言っていたが、その言葉が分かるような気がした。
 石支柱の間の空間におどろおどろしさが漂っている。
 かかわりたくない。
 帰りたい。
 そう思わずにはいられない、何かがある。
 二葉の心に、迷いが生じる。
 凛も鷹臣も全て忘れて、旦那のもとに帰ってしまえばいい。
 一連のことを気のせいだったと思えばいい。
 凛のことは綺麗な思い出にしてしまえばいい。
 もう一人の二葉が耳元で囁く。
 それでいいのか。
 逃げ出したままでいいのか。
 自分さえ良ければいいのか。
 凛を見捨てるのか!
 その声たちは反響し、体中を駆け巡った。
 忘れろ、忘れろ、忘れてしまえ。
 浮気相手など忘れてしまえ!
 分が悪くなったら親友さえ切り捨てる、おまえは都合のいい親友だな。
 凛のことを思い出にしてしまうのか。
 自分から面倒に巻き込まれることはない。
 十二年前に十分探したじゃないか。
 あの時、やれるだけのことはしたじゃないか。
 蒸し返してどうなる。
 いなくなった相手など忘れてしまえ。
 凛を見捨てるのか、もう一度、見捨てるのか!
 また、後悔するのか!
 二葉は瞼を閉じると、自分の心に問いかけた。
 私はどうすればいいのだろう。
 私はどうしたいのだろう。
 ザワザワ梢を鳴らし、風が通り抜ける。
 凛のことを知りたい。
 凛の失踪の真実を知りたい。
 沸き起こった思いに決意し、二葉は瞼を上げた。
 そして、二葉が見たものは。
 石支柱の間に佇む、鷹臣。
「よくここに来たね」
 以前と同じにこやかな表情が、二葉には作り物に見えた。
 この人が、私から凛を奪った人だ!
 直感は警告を鳴らし続けていたが、二葉はそれを無視して鷹臣に歩み寄った。


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by 1000megumi | 2005-04-10 21:55 | 小説 失踪(完結)