オリジナル小説&エッセイ


by 1000megumi
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桜幻 15

 それから二週間後には、週刊誌にデカデカと記事が載っていた。
『陸海商事、ヤクの運び屋に転落か?』
 社員が輸入品に混ぜて薬物を運んでいる、売人として売りさばいている社員もいるという内容が、商談している様子の写真とともに掲載されていた。手元の拡大写真は、粉末らしきものが入っている袋を渡しているところがしっかりと写っていた。一部の社員とはいえ組織化されているようで、上層部も深くかかわっているようだと締めくくっている。

 春乃は記事を読んでほくそ笑んだ。
 社員が渡しているような解説になっているが、実際には社員が受け取ろうとしている写真だ。
 酔いに任せて受け取ってしまった者もいるが、キッパリ断わった者もいる。受け取ってしまったものはヤクザの餌食になることだろう。
 何人が人生を狂わせることになるのだろうか。
 絵図を描いた春乃の心には痛みはなかった。
 春乃にとって桜城家が最優先である。あの土地を守ることが最大で最低限の、桜城家の跡取りとしてするべきことである。
(あの土地は守らなくてはならない。眠りを妨げないためにも…)
 校舎裏の桜たちに思いを馳せた。

 陸海は疲れていた。
 陸海も陸海グループも不運、不祥事続きである。
 春乃とのラブホテルでの密会は罠だったらしく、陸海は脅迫されている。脅迫されるようなことは何もなかったが、写真からそうとしか見えない。その写真は週刊誌に出回っているらしく、買い取れと話がいくつかあった。
 他には総会屋の存在。これは脅迫元と同じであろう。M&Aの動き。データ流出の疑い。
陸海商事社員による不祥事。陸海建設は訴訟を起こされ、マスコミに取り上げられている。秘書はダブルブッキングし、相手に迷惑をかける。
 不祥事があるせいか仕事がうまく取れなくなっている。この二ヶ月で、グループ利益が三十四パーセントも落ちていた。
 政治家にも見放されている節がある。誰かの根回しがあったようだが、これも脅迫元と同じかもしれない。
 全てが春乃の起こしたこととは思えないが、華櫻にヤクザの息子がいることは調べが付いているので、可能性はゼロではない。
 もし、華櫻の土地に手出さないと言えば、この一連の不運・不祥事から解放されるのだろうか。
 もう、疲れたと、全てを放り出してしまいたくなる。

 華櫻では春乃が杉原と付き合っていると噂が流れているらしく、温室に杉原が来ると皆そそくさと出て行ってしまう。
 気をつかっているのか、巻き込まれたくないのか、微妙なところだろう。
 春乃には最強と言わしめた笑顔が絶えることがなかった。
「ここまで見事にパーッと消えられると嫌われているような気がしてくるな」
「今まで好かれていたと思っていたの?」
 春乃は上機嫌で紅茶を入れていた。
「……今後の予定は?」
 杉原の言う今後とはもちろん陸海のことだ。
 付き合っているという噂が流れているが二人の関係は変わることなく、首謀者と共犯者の関係である。
「いいものが手に入ったのよね~」
 カップ越しに見つめる春乃の笑顔は恐いくらい妖しく、杉原は背中にゾクゾクと悪寒が走り冷や汗が吹き出た。
「どうする気だ?」
 恐いと思いながらも聞かずにはいられない。
 かかわってしまった以上、最後まで見届けるべきであろう。いまさら、春乃が恐ろしいからと降りるわけにいかない。きっと春乃がそれを許さないはずだ。
 ヤクザと呼ばれる人間を幾人も見てきた。ボーダーラインにいる人間を、超えてしまった人間を幾人も見てきた。だから杉原はわかる。春乃は超えてしまっていると。そして、全てが計算されていると。
「チェックメートするわ」
 春乃の声は穏やかであった。


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by 1000megumi | 2007-06-22 16:29 | 小説 桜幻(完結)