オリジナル小説&エッセイ


by 1000megumi
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桜幻 13



「俺が用あるんじゃなくて、俺に用があるんだろ」
 誰ともなく、春乃を見た。
「デートにお誘いしたの」
 紅茶のカップを片手ににっこり笑顔で答える。
「おまえらいつからそんな関係になったんだッ」
 急き込むように質問をされたが、春乃は笑顔のまま動じなかった。
「これからなろうとしているのよ。邪魔しないでくれると嬉しいなぁ」
 マジマジと二人を見比べ、何か言おうとするが誰も何も言わなかった。言わなかったというより、言えなかったが正しいのかもしれない。
 春乃の笑顔ほど恐いものはない。
 華櫻で出会って一年半。その間に春乃の恐ろしさを何度か見てきている。
 こういうときの春乃に逆らわない、かかわらないのがいいだろう。
 そそくさと皆が帰ってしまった。
「おまえのその笑顔は最強な気がするぞ」
 春乃は何も言い返さずに、笑顔のままだ。
(これはマジで恐ろしいことを考えているかもしれない)
 杉原は少し不安を感じたが、ここに来て何も聞かずに帰れることないだろうと思い直し、用件を早く済ませることにした。
「で、用件は?」
「ちょっと、お願いがあるの?」
 これも笑顔付き。
「どんな?」
「お父さまにお願いして、陸海を恐喝して欲しいの」
 世間話をするようにさらっと言い流した。
 杉原の父親はヤクザである。広域暴力団富樫組系列の組長をしている。
「ダメかしら?」
 お願いされても杉原にしてみれば虫が良すぎる話で、ため息しか出てこなかった。 
「おまえさぁ。前に自分が何言ったのか覚えているのか?」
「あら? 私がジコチューだって知らないの?」
 全然気にすることなく、ニコニコしながら再度お願いする春乃。
「ネタはあるのよ」
 何を言ったところで押し切られるのが目に見えている。
 惚れた弱みってヤツだ。
「どんな?」
 仕方ないので聞く姿勢を見せると、春乃は嬉々として鞄から封筒を取り出した。
 渡された杉山は中身を確認した。
 写真が数十枚。
 それは、陸海がラブホテルらしき建物に入っていく姿や、その相手と思われ制服を着た少女の姿。
「陸海ってロリだったのか?」
 それに答えることなく、春乃は笑顔で杉山の反応を見ていた。
 写真は室内の様子も写している。
 いかにもな室内、ベッド。入り口に突っ立っている陸海。ベッドに腰掛けている少女。ツーショット。どれも服を着ていたが、だからといって十分に怪しい写真である。
 ラブホテルから出てくる写真もあった。
 その中の一枚に杉原は気づいた。
「おい。この女って…。まさか春乃、おまえか?」
「あれ? バレた? 顔が写らないように撮ってもらったんだけど…」
 あっけらかんと白状する春乃は何とも思っていないようである。
「陸海をハメたのか?」
「うん。嵌めたよ」
 杉原は春乃を見たまま固まった。
 ハメたのか? 嵌めたよ。この『はめた』という言葉が、発音は同じでも違う意味があることに気づいているのだろうか。
「どーゆーつもりなんだよッ!」
「どーゆーって、これなら脅しのネタに使えるでしょ?」
「だからって、するなッ!」
「いいじゃない、別に」
「よくないッ!」
「まったく…」
 春乃はあきれたように杉原を見た。
 何をそんなに杉原が怒っているのか、さっぱりわかっていない。
「こんなことするくらいなら、俺に言え。女くらい調達してやる。春乃が相手する必要なんかねぇよッ」
「えーっ。無理よ。桜城家因縁の駆け引きだもん」
「因縁だか何だかしらねぇが、身体売る必要がどこにあるッ。やりようってもんがあるだろッ」
「…………」
 春乃は杉原に言われたことを反芻した。
 そして、勢いよくバンッ! とテーブルを叩くと前のめりになって詰め寄った。
「売るって何よっ! 身体売るですって! どっから湧いてくるのよ、その発想!」
 春乃の勢いに押されて仰け反る杉山は、どっか間違っているぞ…と思った。
(互いに勘違いしているのか…)



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by 1000megumi | 2006-01-16 20:45 | 小説 桜幻(完結)