オリジナル小説&エッセイ


by 1000megumi
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悪女 1



 メッタ刺しの殺人事件が発生してから一週間。捜査は意外と簡単に終結しそうな雰囲気であった。
 容疑者として事情聴収を受けていた女子高校生が犯行を認めたからだ。
 サバイバルナイフをインターネットで購入し、夜十時ごろ被害者が一人暮らししているマンションに行き、被害者が帰宅するのをひたすら待っていたという。帰宅直後に部屋を訪ね、上がり込むなり刺した。そのように、自供した。
 動機については一言も話していないが、落ちるのは時間の問題だろう。
 それが大半の見方だ。
 被害者の大学生と容疑者の女子高校生との関係がつかめていなかったが、友人に紹介されたかナンパされたか、もしくは出会い系サイトで知り合ったか、どれかだと推測されていた。あれだけ刺しているのだから、よほどの恨みがあったに違いない。それなら周りの家族や友人が、ある程度は動機となる何かを知っていてもおかしくない。
 証拠は簡単に集められそうで、捜査本部は緊張から解放されていた。
 だが、簡単には終結しなった。

「南条、来てくれないか」
 容疑者の取調べをしていた笠間から声をかけられた南条綺湖は、おやっと思った。
 笠間には嫌われているので直接声をかけられることはなかったからだ。
 何事かと思って綺湖は近寄った。
「頑なでな、どうもオレじゃあ、無理みたいだ。南条はどうだ? 同じ女だろ、落とせるか?」
 嫌なヤツ…と、綺湖は思った。
 同じ女。それに、どんな意味を込めてこの男は言っているのだろう。
 犯罪に男も女もない。同様に、容疑者を落とすのに、男も女もない。どれだけ相手の心に入り込めるか。
 笠間には無理だと綺湖は始めから思っていた。
 容疑者の心理が見えていないからだ。
 綺湖の推測が正しければ、容疑者はレイプされている。それが動機だと、感じていた。
「どうでしょう。やってみないことにはわかりません」
「ちょっと、やってみるか?」
 やってみるか? じゃなくて、代わりにお願いしますだろ、と綺湖は内心突っ込みを入れる。
「そうですね、条件を飲んでくださるのでしたら…」
「条件?」
 胡乱な視線を隠しもせず笠間は綺湖を見た。
「ええ、条件」
「何だ」
「取調べ中は男性立ち入り禁止」
「おまえ…、何か知っているのか?」
「さぁ、何も。笠間さんみたいな怖い顔がいたら、言いたくても言えないのではないかと思って…」
「──わかった」
 不機嫌そうな低い声だった。



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by 1000megumi | 2005-09-24 20:31 | 小説 悪女(連載中)

悪女 目次



警視庁の一課に所属する南条綺湖は、担当を離れた事件のことで独自に調査していた。
それは事件の容疑者であり被害者でもある少女に何かをしてあげたかったからだ。
何も出来ず、自己満足に過ぎないとわかっていたが、綺湖の過去が行動を突き動かす。
そして、一人の男と出会い、思いもよらぬ事件へと進展する。



  



南条綺湖(なんじょうあやこ)
   警視庁の捜査一課に所属。
   過去の出来事で、モノの考え方が刑事としてズレている。

南条修一(なんじょうしゅういち)
   綺湖のイトコで四課の課長。

長谷川(はせがわ)
   富樫組の準幹部。
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by 1000megumi | 2005-09-24 20:22 | 小説 悪女(連載中)

桜幻12



 その三日後。
『陸海建設工業と建設大臣、癒着問題発覚か?』
 週刊誌で大きく取り上げられた。

 木曜日の八時を五分過ぎた頃、陸海の携帯電話が鳴り響いた。
『ごきげんよう、陸海社長』
 涼やかな声が流れた。
「何か用かな? 私はいろいろ忙しくてね」
『そのようですね。週刊誌に取り上げられたようですけど、その後、特にマスコミの動きはなかったみたいですね。お金をバラ撒くのに忙しそうで、一段落ついたのですか?』
「用件を…」

 春乃が指定した場所はホテルだった。しかし、ホテルと言っても、ラブホテルだ。
「密談するのにはもってこいでしょ?」
 前回同様に華櫻の制服姿の春乃は、中央にある大きなベッドに腰をかけながら言った。
「完全にプライバシーが守られているから…」
 そして、くれぐれも押し倒さないでね、と付け加えた。
 娘に対して――と思ったが、そのことは当然言わず、用件だけを聞いた。
「知っているでしょ? 華櫻のことです」
 どのような脅しにも陸海は屈しないつもりだ。そのためにも、あちこちに手を回しておいた。雪村との関係の証拠は処分し、証拠がなくても疑いを流されるのは十分マイナスになるので、マスコミには金を握らせている。
 脅迫のネタになりそうなのは、出来るだけ処分した。
「単刀直入にいいます。華櫻の土地は諦めてください」
 緊張のかけらもない口調で春乃は言った。
「この話は、水ノ宮にとってメリットになるのは一つもありません。だから、華櫻との合併は不必要です。陸海社長、母との契約を破棄してください」
「出来ない相談だね」
 陸海はドアの前に立ったまま、そこから一歩も動いていなかった。
「雪村との関係は切りましたか?」
「――――」
「あれで終わりだなんて考えていませんよね? それとも子供の悪戯とでも思っているのですか?」
「君がそんなに甘い人間だとは思っていないよ」
「甘い人間じゃない、ねぇ…。どうかしら?」
「探り合いは止めよう」
 春乃は肩をすくませただけだった。
「――君は、何を望んでいる?」
「何を望んでいると思います?」
「探り合いは止めようと言ったはずだ」
「確かに言いましたね。だけど、私は従うとは言っていませんよ」
 じっと春乃を見てつめていた。逸らすことなく、隙を与えないためにも、春乃の隙を見つけるためにも、陸海はじっと見つめている。
「恐い顔だわ」
 すくすく笑いながら言う春乃は、どうみても面白がっているようにしか見えない。
 それは、挑発であった。
「――華櫻との契約を破棄すると、君にどんな得がある。それこそメリットがないだろう」
「メリットはない。そう、ありませんよ。――せっかくですからはっきり言いましょう。私は華櫻の土地を他の者に渡したくないのです。ただ、それだけです。貴方も言ったでしょう。桜は日本人の心。華櫻の桜は素晴らしいと」
「私とて同じだ。あんなに素晴らしいものを手放したくない」
「どうしても?」
「ああ、どうしても」
「――交渉決裂ですね。仕方ありません。今回は諦めましょう。近いうちにプレゼント差し上げますから、楽しみにていてください」

 小春日和ののどかな昼下がり。
 花に囲まれ紅茶を飲む生徒達。
 テーブルには幾種類もの甘いお菓子。
 不良と呼ばれている少女たちも、ここではただの少女。
 笑い声は絶えず、おしゃべりに花を咲かせている。
 それもここは春乃の作り出した空間だからだろうか。
 虚勢を張らず、安心して素顔を晒していた。
 しかし、闖入者が現れると、楽しげに笑っていた少女たちの表情は一転する。
 温室の扉が開くと、一斉にキツイ視線が投げかけられた。
「今日もずいぶん賑やかだな」
 杉山は投げかけられた視線を気にすることもなく近づいてきた。
「何の用だよ」
 凄みを利かせて一人の生徒が聞いてきたが、軽くあしらうように杉山は意味深な笑みを張り付かせていた。



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by 1000megumi | 2005-09-23 20:53 | 小説 桜幻(完結)