オリジナル小説&エッセイ


by 1000megumi
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

<   2005年 04月 ( 12 )   > この月の画像一覧

桜幻 プロローグ



 腰に届くほど髪の長いその人影は、漂うようにそこを歩いていた。
 重力というものを感じさせない足取り、現実味のない幻のように、ふわり、と歩いていた。
 桜の魔力に囚われた者だけが見る、月夜の夢。
 闇夜のような漆黒の髪。月明かりに浮かび上がる桜のような白い肌。桜の根に抱かれ眠りについた者の血を吸い上げた、薄紅色の花びらのようにほんのり色づいた唇。
 そして、その瞳は――桜と同じ。魅了し、捉え、離さない、魔力と秘めた瞳。
 セーラー服を身につけたその少女。
 桜の楽園に誘う。
 無邪気なあどけない笑顔を見せて、誘う。
 天女のように微笑みながら、誘う。
 桜の楽園に…。


次へ

目次
[PR]
by 1000megumi | 2005-04-30 20:59 | 小説 桜幻(完結)

桜幻 目次



桜の美しい、華櫻高等学校。
理事長の娘・桜城春乃は、学校が吸収合併される噂を聞く。
校舎裏に広がる桜たちを守るためにも、
阻止しようと画策し、買収した陸海と対立する。


プロローグ          10
11 12 13 14 15 16 17 18 あとがき





桜城春乃(おうじょうはるの)  
   華櫻高等学校2年。理事長の娘で跡取り。

桜城春菜(おうじょうはるな)  
   華櫻高等学校の理事長。春乃の母。

桐島蘭丸(きりしまらんまる)  
   警視庁の刑事。春菜の再従姉弟。

杉原(すぎはら)         
   華櫻高等学校3年。ヤクザの息子。

陸海(くがみ)           
   水ノ宮学園の理事。陸海クループのトップ。

狭間(はざま)          
   陸海の部下。
[PR]
by 1000megumi | 2005-04-30 20:54 | 小説 桜幻(完結)

失踪  目次



失踪した、鷹臣と裕子。その事を知った二葉は真相を探ろうとしたが…。

          
      10  11  あとがき


<登場人物>
四方堂 鷹臣 失踪中
四方堂 凛   鷹臣の前妻 5年前に失踪宣告
四方堂 遙   鷹臣の後妻
一瀬 隆志   裕子の夫
一瀬 裕子   鷹臣の愛人の一人 失踪中
加賀美 二葉 鷹臣の愛人の一人 凛の親友
[PR]
by 1000megumi | 2005-04-10 22:39 | 小説 失踪(完結)

失踪  あとがき 



 この小説は『人生のゲーム』と言うネットゲームで使用された名前が、一部のキャラ名になっております。
 ゲーム上で、結婚したり恋人になったり別れたりしながら遊んでいたのですが、ある日、鷹臣がデータ保存を忘れた為に、消えたのがことの始まりです。
 鷹臣の前妻の凛(仮名)に失踪したとメッセージを送ったりしているうちに、裕子(仮名)も失踪していることが判明。二人は駆け落ちしたのか!? と冗談で書き込みをしているうちに、ダブル不倫の話へと進展しました。
 面白そうだから小説にしたりして…二葉(仮名)の言葉を確かに面白そうだと思い、後先考えずに、この失踪を書き出しました。
 始めはダブル不倫の話を書く予定でしたが、三話目で挫折。厭きている上に、好きな分野ではないので話はなかなか進みません。なので、さっさと終わらせてしまうために、好きな分野に路線変更。
 路線変更してからは楽しんで書いていたのですが、細かいことまで書いていると長くなるのを察知し、急遽、終わらせる方向で話を進めました。そのために、こんな無理矢理に終わらせたと言わんばかりの終わり方になってしまったのです。
 本当は四方堂家の信仰的な分部も書こうかと思っていたのですが、省略。二葉の鷹臣との再会も凛との再開も出来るだけ省略してしまいました。おかけで、面白みがずいぶんなく無くなっちゃいましたけど…。
 問題は解決せずに、謎のままの終わり方です。
 失踪者続出しているので、これでいいんです(笑)
 先日は、二葉(仮名)の旦那が失踪(データ削除)しました。
 次は誰が失踪するのでしょうか。
 最後なりましたが、お付き合いくださいありがとうございました。
 ネタを提供してくださった(モデルになった)3名に感謝します。


                                       千めぐみ


戻る

目次
[PR]
by 1000megumi | 2005-04-10 22:23 | 小説 失踪(完結)

失踪 11



 大木は二本、並んでいた。
「これが、四方堂のご神木だ。夫婦木でね、左側が男木で右側が女木だ」
 左側の男木の方が大きく、張り出した太い枝が一本、右側の女木に飲み込まれている。
 厳かであった。
 但し、神社に行くと感じるあの厳かさとは違う厳かさである。人間は俗物であるから、清浄が恐くも感じる。清められた神社特有の、清浄も厳かもない。この恐さは、それとは違う相成れないものだ。まったく別の質があった。
 空気が澱んでいると、二葉は感じた。
 時折風が吹き抜けるが、じっとりとまとわり付くような不快感がある。
 こんな所にいたくない。
 凛を連れて、帰りたい。
「凛は?」
 用件を済ませたくて、早々に尋ねた。
 ここに来ることになったきっかけは鷹臣の失踪であったが、二葉には鷹臣のことはどうでもよかった。凛のことが重要なのだ。
 凛はここにいる。
 絶対にここにいる。
 二葉は自分の直感が正しいと信じている。
「――凛、ね…。案内するよ」
 こっちだ、と言う鷹臣の後についていく。
「ここはね、さっきのご神木を中心に八方に支柱があり、その支柱が結界を作っているんだ。二葉が入って生きたのは南、午の方角だ」
 木々の間を潜り抜けて歩く。
 二葉は空を見上げ、太陽の位置から向かっている方角を推測すると、厭な予感にとらわれた。
 向かっている方角は、北東。
 艮の方角。
 つまり、鬼門だ。
 ザワザワと得体の知れない不可解なものが競り上がってくる感覚がする。
 澱んだ空気が重苦しく纏わりつき、息苦しい。
 帰りたい。
 こんな所には一秒たりともいたくない。
 不意に緑が途切れ、開けた空間が出現した。
 その空間は、二葉がくぐってきた南・午の石支柱のように、中心に石支柱が二本立っている。
しかし、午の石支柱とは違い、この艮の石支柱は人の形をしていた。
「左側が凛だ」
 鷹臣の言葉に、二葉はふらふらと左側の石支柱に近づく。
「そんな…」
 呟きは風に掻き消されるほど小さく、誰の耳にも届かなかった。
 凛の面影を残す、石支柱の顔。丸み帯びたライン。
 首をかしげている少女のような、風情漂う石の彫刻のようだ。
「凛…?」
 二葉は、触れた。
 頬に触れ、輪郭を辿る。
「なぜ…? ウソ、でしょう?」
「嘘じゃない…」
 同じように頬に触れ輪郭を辿った鷹臣の手は、二葉の手を捕らえた。
「これが凛だ」
「嘘よ!」
 認めたくなくて、否定して欲しくて二葉は叫んだ。
「凛じゃない! 凛は生きている!」
 そう、生きている。
 凛は生きている!
 二葉はこの石支柱に触れて、なぜか凛が生きていると確信した。
「二葉…」
 鷹臣は耳元で優しく囁く。
「これが凛だ。そして、生きているよ」
 掴んだ二葉の手を勢いよく石支柱に押し込んだ。
 ぐにゅう。
 手は硬いはずの石支柱にめり込む。
 信じられなくて二葉は振り返った。
 そこには、穏やかに微笑んでいる鷹臣の顔。
 しかし、目だけは笑っていなかった。今ままで見てきたことのない目。冷たくバカにしているような目。
 これが鷹臣の本性なのだろうか。
「この間の百鬼夜行で結界が傷んでいてね、補強するのにちょうどいい」
 二葉の肩を掴み。
「凛と一緒にいるといいよ」
 にこやかな笑顔のまま、力を込めた。

 遥はハッとしたように顔を上げると、空を見上げた。
 ジッとある一点を見つめていたが、ため息をつきながら視線を戻した。
 そしてやるせなさそうに呟く。
「私は絶対に、あそこには行かないわ…」



 後日、加賀美から失踪した妻の行方の問い合わせがあった。



                                        END


次へ

戻る

目次
[PR]
by 1000megumi | 2005-04-10 22:08 | 小説 失踪(完結)

失踪 10



 うっそうと繁った木々は、二葉に威圧感を与えていた。
 幾重にも影を作り、奥が見えず、暗闇に引き摺り込まれるような気がする。
 一瞬、恐いと思ったが気持ちを奮い立たせ、四方堂家の門へ向かって歩き出した。
 遥に描いてもらった地図では、すでに私有地に入っている。道なりに行けば、石の支柱だけの変わった門があるはずだ。
 遥に言わせれば、そこには結界がはっており、目に見えぬ門が存在するらしい。
 あまりにも、その結界の向こう側が恐く感じて、門をくぐることは出来なかった。門をくぐったら最後、二度と出て来られなくなると思ったという。
 行けば言っている意味がきっとわかると遥は言っていた。二葉にも霊感があるから、見えるはずだと。
 しかし、凛や遥のように霊感があるとは二葉は思えないでいた。
 凛が見えていたものが見えたことはない。
 遥のように、唐子を飛び出させることは出来ない。
 見たのは、あの茶室の一件だけだ。
 遥に感じた何かを感じ取れるのだろうか。
 まったく不安がないわけではない。
 四方堂家を尋ねることが必ずしも問題解決なるわけではない。
 だが、二葉にはそれしか方法がないような気がした。
 突如、視界は開け、広場のように何もないところに出た。そこには真ん中に、石支柱が二本立っていた。
 二本の石支柱の間は二間の幅があり、北へと道が続いている。
 二葉は南側から石支柱を眺めた。
 何がどう違うのかはわからない。だけど、言葉に出来ない何かを感じ取っていた。
 門をくぐったら最後、二度と出て来られなくなると思い、恐ろしくて門をくぐれなかったと遥が言っていたが、その言葉が分かるような気がした。
 石支柱の間の空間におどろおどろしさが漂っている。
 かかわりたくない。
 帰りたい。
 そう思わずにはいられない、何かがある。
 二葉の心に、迷いが生じる。
 凛も鷹臣も全て忘れて、旦那のもとに帰ってしまえばいい。
 一連のことを気のせいだったと思えばいい。
 凛のことは綺麗な思い出にしてしまえばいい。
 もう一人の二葉が耳元で囁く。
 それでいいのか。
 逃げ出したままでいいのか。
 自分さえ良ければいいのか。
 凛を見捨てるのか!
 その声たちは反響し、体中を駆け巡った。
 忘れろ、忘れろ、忘れてしまえ。
 浮気相手など忘れてしまえ!
 分が悪くなったら親友さえ切り捨てる、おまえは都合のいい親友だな。
 凛のことを思い出にしてしまうのか。
 自分から面倒に巻き込まれることはない。
 十二年前に十分探したじゃないか。
 あの時、やれるだけのことはしたじゃないか。
 蒸し返してどうなる。
 いなくなった相手など忘れてしまえ。
 凛を見捨てるのか、もう一度、見捨てるのか!
 また、後悔するのか!
 二葉は瞼を閉じると、自分の心に問いかけた。
 私はどうすればいいのだろう。
 私はどうしたいのだろう。
 ザワザワ梢を鳴らし、風が通り抜ける。
 凛のことを知りたい。
 凛の失踪の真実を知りたい。
 沸き起こった思いに決意し、二葉は瞼を上げた。
 そして、二葉が見たものは。
 石支柱の間に佇む、鷹臣。
「よくここに来たね」
 以前と同じにこやかな表情が、二葉には作り物に見えた。
 この人が、私から凛を奪った人だ!
 直感は警告を鳴らし続けていたが、二葉はそれを無視して鷹臣に歩み寄った。


次へ

戻る

目次
[PR]
by 1000megumi | 2005-04-10 21:55 | 小説 失踪(完結)

失踪 9



 鷹臣の前妻・凛の失踪の件を話し、共通するものがあると二葉は告げた。
 隆志は信じられなかったが、言われれば偶然の一言で片付けられないと思えるようなってしまう。
 やはり裕子の失踪は鷹臣と関係あるのだろうか。
「他にも共通事項があるかもしれませんね」
「共通事項…?」
「ええ。霊感があること、失踪していること。この二つ以外にも…」
 隆志は考えたが、すぐに思い浮かぶのは神隠しの件と、裕子の家庭環境のことだった。
 裕子は三才の時に父親が亡くなっている。再婚せずに、女手一つで裕子は育った。神隠しのこともあり、小さい頃はあまり友達はいなかったようだ。
「凛さんの家庭環境はどうでしたか? 裕子は早くに父親が亡くなっていますが…」
「凛のご両親は健在です。それより、出身地はどちらでしょう?」
「埼玉です」
 埼玉と言われ、二葉はかすかに眉を顰めた。
 何か手がかりになりそうな気がする。
「凛とは違いますね。埼玉のどちらですか?」
「埼玉のK市ですよ」
「鷹臣さんとも違うか…」
「四方堂さんは埼玉なのですか?」
「ええ。T市です」
「T市…」
 隆志は裕子から父親の実家がT市にあったと聞いたことがある。祖父母は裕子が生まれる前に亡くなっており、父親も三才のときに亡くなっていることもあるので、親戚付き合いはほとんどなかった。
 結婚式に出席した父親の親戚たちと会うのは、中学生の時の法事以来だと裕子が言っていた。
 年賀状のやり取りと冠婚葬祭だけのようだ。
「裕子の父親の実家がT市だと聞いています」
 それだ! と思った。
 何の確信もないが、それだと二葉は思ったのだ。
 初めて隆志と電話で話したときに、鷹臣の名前を聞いて心臓がドクンドクンと速まった、あの冷たい興奮が沸き起こる。
 ああ、そうだ。そこだ。
 鷹臣はそこにいる。
 凛もそこにいる!
 それは、直感。
 他人から見ればバカにされるような当てのない直感。
 しかし、二葉にはゆるぎない直感。
「T市のどの辺でしょう?」
「そこまでは…」
 その後いろいろ話をしたが、それ以外は接点になるようなものは浮かんでこなかった。
 だが、それでもいいと二葉は思った。
 T市だ。
 T市に行けば何かがわかる。
 きっと、わかる。
 鷹臣を中心に、何かがあったに違いない。
 鷹臣の実家に行けば、わかるかもしれない。
 遥に鷹臣の実家を聞けばいいのだ。
 そこに行けば解決するような気がした。

「本気でおっしゃっているのですか?」
 抹茶を入れようとしていた遥の手が止まった。
 その様子が二葉はおかしかった。
 表面上は穏やかで掴みどころのない、得体の知れない女。
 それが驚きを表しており、人間臭さが出ていた。
 同じ人物なのに、この差は何だろう。
「あそこには近寄らない方がいいです。あなたのような人は喰われてしまいます」
「喰われる…? それはどういう意味ですか?」
 非現実な話をしたのは二葉であったはずが、それ以上の非現実な言葉が遥から返ってきた。
「言葉通りですよ。異世界です」
 冗談を言っているわけではない。
 遥は向き直ると二葉を正面から見据え、至極真面目に言った。
「この世にして、この世にあらず」


次へ

戻る

目次
[PR]
by 1000megumi | 2005-04-10 21:50 | 小説 失踪(完結)

失踪 8



 裕子の失踪は鷹臣となんら関係ないものだと思われると遥に伝えたように、隆志は二葉にも電話で伝えた。
 当然、その考えにたどり着いた経緯を聞かれ、隆志は包み隠さず二度の神隠しのことを話した。今度は三度目の神隠しで、きっと突然帰ってくるだろう、それまで待つことにすると。
 その話はそれで終わると思ったが、二葉は驚き直接話したいことがあると言い出した。
 隆志が待ち合わせた喫茶店に行くと、指定されたテーブルに小柄な女性が座っていた。
 セミロングのストレートヘアはシャープな印象である。
 裕子とは違うタイプだと思ったが、隆志の知らない裕子もいるので、必ずしも言い切れないような気がした。
 もしかすると二葉のようにシャープな裕子もいるのかもしれない。
「加賀美さんですか?」
 声をかけると見上げてきた顔は、始めの印象と違い縋るような頼りなさ気な雰囲気があった。しかし、次の瞬間にはキュッと唇を引き締めて、真っ直ぐ隆志を見つめてくる。その視線は鋭く強かった。
 だが、先に弱さを垣間見た隆志には、虚勢にしか見えなかった。
 弱さを無理矢理捩じ伏せて、目標に向かって突き進んでいるように思えた。
 踏み躙られても踏み躙られても、立ち上がり歩き続ける。ひたすら突き進む。迷っても間違っても、立ち止まることもあっても休むことはしない、バカ正直で不器用なのかもしれない。
 人に寄りかかること、助けてもらうことがうまく出来なくて、人に迷惑かけたくないと一人で解決しようと頑張るタイプ。
 裕子とは正反対だ。
 人に頼り、依存する裕子とは正反対で、 強い女だと誤解されやすいのかもしれない。
 本当は弱いのかもしれない。
 弱さを曝け出す強さがないのかもしれない。
 裕子も本心を曝け出すのは苦手だったが、弱さを武器にする強かさがあった。
「裕子さんのことですが、過去に神隠しにあったことがあるとか…?」
「ええ、六才と十一才のときです」
 二葉は少しの間考え込んでから、真摯な眼差しで隆志に問いかけた。
「裕子さんはもしかして、見える方じゃありませんか?」
「見える…とは?」
「形のないもの、この世のものでないもののことです」
「それは、つまり…幽霊が見えるかってことですか?」
 二葉はゆっくりと頷いた。
 何故このような質問をしたかといえば、先日の茶室での出来事と凛のことを結びつけたからだ。
 凛は見える人だった。死期が近づくと、その人が透けて見えたという。
 そして茶室の出来事。二葉の見たものが事実とすれば、遥が触れたから唐子が飛び出してきた。
 二人に共通するのは、非現実なものが見えること。そして、鷹臣の妻であること。
 神隠しなど非現実なことを体験しているのなら、凛のように見えないものが見え、遥のように触れられないものに触れられるのかもしれない。
 鷹臣がそういった人を選ぶ傾向があるというなら、鷹臣との失踪にまったく関係がないともいえないように思えた。
 凛が失踪し、鷹臣と裕子が失踪した。
 これを偶然と捉えていいのだろうか。
 一度目は偶然、二度目は必然。
 三度目は…?
 裕子は何か知っているはずだ。
 裕子の神隠しには理由があるはずだ。
 二度の神隠しは三度目の布石に違いない。


次へ

戻る

目次
[PR]
by 1000megumi | 2005-04-10 21:45 | 小説 失踪(完結)

失踪 7



 凛が行方不明になったとき、二葉は信じられなかった。
 あまりにも突然で、いったい凛に何があったのか。事件に巻き込まれたか自らの失踪なのか、今でもわからない。
 事件に巻き込まれたとしたら犯人を許せないと思ったし、凛自ら失踪したとしたら、何故、そこまで思いつめるほどの問題を相談してくれなかったのか、凛を詰りたかったことだろう。役に立たなかったとしても一言相談して欲しかった。
 親友だと自負していたが、それは二葉だけの思い込みだったのだろうか。
 今では鷹臣への気持ちは男と女のそれに変わってしまったが、そのときは純粋に友人の夫で、同じ悲しみと苦しみを持つ同士であった。
 突然行方知れずになった凛を心配し、予兆に気づかなかった自分を責め、不安や悲しみの中で互いに慰め励ましあっていた。
 警察は当てにならず、自分たちで協力を求め手がかりを探していたが、見つからずに七年が過ぎた。そして、鷹臣は失踪宣告を申し立てたのだ。
 あれから五年。何がどうなってこのような関係になったのか、二葉にもわからない。互いに癒えぬ傷を気遣い、気が付いたら求め合っていた。
 不倫と言われようが関係を清算せず、また、鷹臣が結婚しても二人の仲は続いた。
 どうして続いたのかわからない。今思えば、二人の間には凛がいたからではないだろうか。
 凛…。
 今頃どうしているのだろう。
 二葉は懐かしい凛の顔を思い浮かべる。
 名前と違い、ほわんかしていた凛。お人よしで、いつもニコニコ笑っていた凛。首をかしげて、おっとりと「二葉」と名を呼んでくれた凛。
 息子の一臣を胸に抱き、笑顔で話しかけていた、あの顔が忘れない。幸せを絵に描いたように、隣にいる鷹臣に微笑み、二人して一臣を愛おしそうに見つめていた、あの時の二人の笑顔が忘れられない。
 願わくは、今も凛が笑顔でいますように。
 願わくは、鷹臣さんが凛の元にいますように。
 願わくは、二人が奇跡的に出会っていますように。
 願わくは、凛が一臣を抱き締められますように。
 願わくは、親子三人水入らずで暮らせますように。
 願わくは、凛が幸せになれますように。
 願わくは、凛の笑顔がまた見られますように。
 願わくは、互いに全てを許し、元の鞘に納まりますように。
 二葉は祈った。
 鷹臣の失踪が裕子となんら関係なく、凛のためであって欲しいと。
 同じ日に失踪したのは、ただの偶然であって欲しいと。
 相手が凛なら、鷹臣との関係も清算できる。
 遥でもなく裕子でもなく、他の愛人でもなく、凛であるなら…。
 そこで、二葉はハタと気がついた。
 鷹臣が凛を選ぶなら、関係を清算できる。
 それは、つまり。
 鷹臣と関係が続いていたのは、凛との関係を断ち切りたくなかったからなのではないのか。いつまでも、凛の思い出を共有できる存在が欲しかったのかもしれない。鷹臣も同じ思いでいたから続いたのだろう。二葉は鷹臣を通して凛を見ていたのかもしれない。そして、鷹臣は二葉を通して凛を見ていたのかもしれない。
 二葉は鷹臣との関係が今まで続いていた理由が、ようやくわかったような気がした。

 ああ、どこに行ったの?
 鷹臣さんはどこに行ったの?
 連絡しないで、いったいどこに!
 あの、裕子と一緒なの?
 それは、許せない…。
 凛の所ではなく他の女と一緒にどこかに行ってしまうなんて、許せないわ。
 絶対に、許さないわっ!


次へ

戻る

目次
[PR]
by 1000megumi | 2005-04-10 21:40 | 小説 失踪(完結)

失踪 6



「あの子は、もう帰ってきませんよ」
 裕子の実家に訪れ、事のあらましを話し終えた隆志に、諦めたように裕子の母は言う。
「母親の直感かしら? あの子はもともとあちらの子ですから…」
 あちらの子…?
 隆志は訝しがった。
「あちらの子とは、どういう意味ですか?」
 裕子の母は湯飲み両手で抱え込み、ちらっと隆志を流し見た。
 ずずっとお茶を飲んで、ふぅっとため息を吐く。
 たったそれだけのことで、一気に十歳も老け込んだ印象を受けた。
「裕子から聞いてことない? 小学校に上がる前と、五年生のときのこと…」
「小学校に上がる前と、五年生のとき…?」
 隆志は裕子との会話を思い出そうとしていた。最近は会話といえるような会話はなかったが、二、三年前までは、裕子といろいろなことを話していた。世間を騒がせているニュースから近所の噂話。趣味のことや友人や同僚のこと。旅行の計画や子供のこと、将来のこと。
 そうだ、裕子は子供はいらないといったのだ。子供は取られるからいらないと…。
 あの時どういう意味か聞いたら、小さい頃の話をしたはずだ。
 確か…。
「神隠しにあったという、話ですか?」
「そうよ。あの子は二度も神隠しにあっているの…」
 同時のことを思い出すと辛いのか、苦しそうな表情である。
 目を伏せたままギュッと眉を寄せて、喘ぐように声を絞り出しながら話を続けた。
「一度目は二年近くも帰ってこなかった。帰ってきたときは、いなくなった時と同様に突然で…。二度目は十ヶ月くらいだったかな。帰ってきたときはうれしくてうれしくて…ねぇ。だけど……。あの子ね、話さないよ。あの時のこと…。約束したから、話せないって言うのよ!」
 悔しそうに言葉を吐き出した。
 湯飲みを掴み手が震えている。
「お義母さん…」
「しかもね! 約束破ったら迎えに来てくれない、お父さんにも合わせてもらえなくなるって言うの!」
「えっ? お義父さんって…」
 確か三才の時に死んだと聞いていたが、どういうことだ?
 神隠しにあったのは、六才と十一才のはずだ。
 神隠しといったところで、実際は誘拐だろう。誘拐犯が死んだ父親と合わせないと脅すのは、いったいどういうことだ?
「誰と約束したのか聞いたら、『おばあちゃんが守り神様って呼んでた』そう言うの。祖母も死んでいるの。あの子から聞く、知っている人の名前は、みんな死んでいる人の名前なの…」
 本当に神隠しにあったというのだろうか。
 行方不明になったのを、神隠しと言っただけではないのか。誘拐や事件や事故で戻らなくなった者を、諦めさせるために、神隠しに、神に呼ばれたと思い込ませたかったのではないのか。
「今回のも神隠しだと思うのですか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない…」
 わからない…呟いた裕子の母は、お茶を一気飲み干した。
 それ以上は何も語らず、シン…と静けさが居間を覆う。隆志はその沈黙の重みに耐えられなかった。
 しかし、その沈黙を打破する力のある言葉は浮かばない。
 何かが引っ掛かるような気がしていたが、あまりにも非現実的なことを言われて、考えは空回りしている。
 何か気になる、聞かなくてはならないことがあるような気がする。それが何なのか思い出せずまま、型どおりの挨拶を述べ、裕子の実家を後にした。


次へ

戻る

目次
[PR]
by 1000megumi | 2005-04-10 12:52 | 小説 失踪(完結)