オリジナル小説&エッセイ


by 1000megumi
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カテゴリ:小説 桜幻(完結)( 22 )

桜幻 目次



桜の美しい、華櫻高等学校。
理事長の娘・桜城春乃は、学校が吸収合併される噂を聞く。
校舎裏に広がる桜たちを守るためにも、
阻止しようと画策し、買収した陸海と対立する。


プロローグ          10
11 12 13 14 15 16 17 18 あとがき





桜城春乃(おうじょうはるの)  
   華櫻高等学校2年。理事長の娘で跡取り。

桜城春菜(おうじょうはるな)  
   華櫻高等学校の理事長。春乃の母。

桐島蘭丸(きりしまらんまる)  
   警視庁の刑事。春菜の再従姉弟。

杉原(すぎはら)         
   華櫻高等学校3年。ヤクザの息子。

陸海(くがみ)           
   水ノ宮学園の理事。陸海クループのトップ。

狭間(はざま)          
   陸海の部下。
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by 1000megumi | 2008-11-04 09:33 | 小説 桜幻(完結)

桜幻 あとがき

 ようやく終わりました。長かった(笑)
 書いたのはずいぶん前で、更新するのが遅かったです。連載開始が2005年4月!? と自分でびっくりですし……。結婚する1年以上も前からだったんだー。転職して忙しくなったから? 結婚の準備で忙しかったから? などと言い訳が浮かんできますね。
 さて、この桜幻、何が書きたかったのか自分自身でさえわかりません。不思議系のお話が書きたかったのかな? と想像してみる。元は、高校生の頃に書いたもの、だったような気がするし……。埋め込んで、吸い取って、花開いて、散る……このシーンを書きたくて、のような気がしてきたぞ。うん、たぶんそれだ!
 他にも書きたいものとかあり(特に不思議系ですね)、気ままに書いて、のろい速度でもUPしていきたいと思います。必ず完結! をモットーにしてww
 とにかく、完結できてよかったわ。
 お付き合いくださいまして、ありがとうございました。


                                         千めぐみ




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by 1000megumi | 2008-11-04 09:29 | 小説 桜幻(完結)

桜幻 18

 いつもののどかな昼下がり。
 漂う紅茶の香り。
 絶え間なく響く少女たちの笑い声。
 不意に現れた人物と認めると、サーッと少女たちは温室を出て行った。
「噂は健在ってわけだ」
「そうみたいね」
「この際、事実にする気ないか?」
 春乃はちらっと杉原を見ただけでそれに答えず、違うことを話し始めた。
「陸海の奥さまに泣きながらお願いしたのがよかったのかしら? 華櫻の土地をいただけたの」
「曰く付きのようだし、厄介払いってところだろ?」
「合併も白紙にされたし、落ち着くとこに落ち着いたってことかしら?」
「そうそう、うちの親父が理事になるとかっているぞ」
「名実ともにヤクザの予備軍校」
「やり方さえ上手けりゃ、儲かるとか言っているしな…」
「誰が経営しても別にいいけど、掘り返すことはしないでね」
「それって…」
「白骨がゴロゴロ出てきたら大騒ぎでしょ?」
「……墓場かよ」
「桜の名所なんてそんなものよ」
「そうか…」
「そうよ。調べてごらんなさいよ。戦地だったとこって、結構多いのよ」
「ふーん。まぁ、祟りには相応しいな」
 テーブルに上に広げてある週刊誌の見出しを目線で指した。
 内容は、水ノ宮学園の理事長だった陸海を皮切りに、関係者が次々と変死している。華櫻高校を買い取り、桜に手を入れようとしたための祟りじゃないかと、いい加減な逸話を交えて書かれていた。
「あっ…」
 不意に何かを思い出したらしく、春乃は声を上げた。
 何だ? という表情で見つめてくる杉原に春乃は言った。
「私と付き合いたかったら、蘭丸の許可をもらってね」
「蘭丸? 誰だそれ」
「親戚。兄みたいな存在かな? お母さまの再従姉弟なんだけどね」
「保護者にご挨拶ってわけか…」
「警視庁にお勤めの刑事なの~」
 楽しそうに言う春乃を、杉原は嫌そうな顔で見つめた。


                                       END


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by 1000megumi | 2008-11-04 09:10 | 小説 桜幻(完結)

桜幻 17

 これまで周りに気を遣って常識的なことをしていたが、もう、どうでもよかった。
 母・春菜とは分かり合えないことはわかったし、血を引いていても相成れない他人であると実感した。
 だから、遠慮はしない。
 受け入れられなければ受け入れなければいい。現実逃避でも何でもすればいい。心が壊れても、受け入れられない弱い心が問題なのだ。
 まどろっこしい方法は止めて、手っ取り早く、カタをつけることにする。
 春乃は母親と決別したのだ。

「くっ…」
 陸海の腕を取ると、春乃は捩じり上げた。
「春乃! 止めて!」
 その小さな身体のどこに力があるのだろうか。
 陸海は苦悶の表情だ。
「お願い! 止めて!」
 春菜の悲痛な叫び声を無視して、さらに力を込めた。
「ッ…」
 逃れようと陸海は足掻いたが、拘束が緩むことはなかった。足掻けば足掻くほど、ギリギリと指が食い込む。
 近くの桜の木まで無理矢理歩かせると、春乃は陸海を桜の幹に押し付けた。
「陸海社長」
 艶やかな笑顔で力を込めると、陸海の身体は桜の幹に飲み込まれた。
 顔半分と右肩、足が幹からはみ出している、現実にはありえない光景に、春菜は青ざめて立ち尽くしていた。
「気分はいかが?」
 手を離した春乃がスクスク笑いながら問いかけてくる。
 陸海は答えられなかった。
 恐怖に脅え、目を見開いて春乃を見ていたが、その瞳には何も写っていない。闇が広がっている。
 ありえないことに完全にフリーズしていた。
「ごきげんよう」
「イヤーーーーーーーッ」
 春菜の絶叫が桜林に響き渡る。
 それが、陸海が最後に聞いた声だった。
 陸海を飲み込んだ桜は、枝先に蕾をつけ、膨らむ。
 陸海の身体はみるみる肉が削げ落ち細くなる。
 膨らんだ蕾は開花し、枝を薄紅色に霞ませた。
 幹から引きずり出しされた陸海は、骨と皮に成り果てていた。まるでミイラだ。
 その上に、陸海から吸い上げた栄養で咲いた桜の花びらが、ハラハラと舞い落ちた。

「凄いものを見ちゃったなぁ」
 座り込んで呆然と涙を流す春菜の後ろから現れたのは、杉原とその父親の部下。
「いつから見ていたのかしら?」
 笑顔の春乃は凄みを増していた。
 これが春乃の本質なのか…と、杉原は見つめた。
(敵にはしたくないなぁ)
 かなう相手ではない。逆なでするようなことはするべきではないだろう。
 杉原は春乃の隣に立つと、靴の先で陸海を突っ突いた。
「これどうする? こっちで始末しようか?」
 杉原の申し出に少し警戒心を解いて首を振った。
「あてがあるのか?」
「考えがあるの」
「おまえの考えって恐ろしそう」
「あら? 楽しい考えよ。センセーショナルでマスコミが飛びついて、お茶の間の話題提供」
 瞬時にクールダウンした春乃の笑顔は、いつもの笑顔で杉原はホッとした。
 ほどなくして呼び出されてやってきた狭間に、誰にも見咎められず、社長室の椅子に陸海を座らせてくるように春乃は指示した。
 ミイラのように骨と皮の固まりなり軽くなった陸海を担ぎ上げて、狭間は去った。
「で、今後の予定は?」
「もちろん、水ノ宮の理事たちを変死させつつ、陸海の家に戸籍謄本片手に乗り込む」
「戸籍謄本片手に?」
「遺産ちょーだいって、ね」
「遺産って…」
「陸海に認知されているから」
「…………マジかよ」
 ため息とともに脱力した杉原を春乃はじぃーっと見つめた。
「何?」
「平然としているなぁと思って。普通、ヒクでしょ?」
「そりゃ~、愛でしょ」
「ふーん、愛ねぇ」
 いったん流したが。
「愛ぃぃぃぃぃ?」
「そこまで驚くことないだろっ」
「ある意味、豪胆? 無謀? 悪趣味?」
「おまえなぁ~」
 言いかけたが杉原は何も言わずに、春乃の髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。




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by 1000megumi | 2008-10-06 10:04 | 小説 桜幻(完結)

桜幻 16

 春乃が指定した場所は、華櫻の桜林。
 輝く月明かりで真夜中でも明るい。
 感心なことに陸海のほうが先に来ていた。
「ごきげんよう。陸海社長」
「用件を聞こうか…」
 疲れた顔は緊張で強張っている。
 くすくす笑いながら春乃は近づく。
「契約破棄をする決心が付いたのか聞きたくて…」
「何度も言ったはずだ。断るッ」
 追い詰められているわりには強気な発言であった。
 あはははははっ。
 突如、春乃は腹を抱えて笑い出した。
「やーだ、本気で言っているの?」
 笑いを収めるとバッグから書類を無造作に取り出した。
「陸海グループのデータ。取引先企業や個人の情報。これ、欲しい人に売ってもいいのかしら? 私はどちらでもかまわないけど?」
「君だったのか…。データを盗んだのは」
「ええ、頼んだら快く引き受けてくださったわ」
「社員をたぶらかさないで欲しいね」
「見放されているだけじゃないの? 私のせいにしないで欲しいなぁ」
 データ流出は陸海グループの信用を損なうものだ。陸海が把握している限りでも大量で重要なデータが含まれている。世間に知れ渡れば株価は大暴落するであろう。グループ全体の危機である。
「これはほんの一部よ」
 春乃は勝利を信じて疑わなかった。
 さすがにこれだけのものを持ち出されたら、膝を屈しないわけにはいかない、それだけの威力のあるものだ。
 しかし、春乃の予想を裏切って、陸海はすぐに応じなかった。
 何がおかしいのか、微かに笑ってさえいる。
 それに違和感を覚え、どこかで間違えたかと危惧がさざなみのように広がる。
 春乃の心に呼応するかのように、風に揺れる桜の枝が唸りをあげてしなった。
「で、どうするの?」
「残念だよ。データの流出は痛いが、私にはどうにも出来ない。権限がないからね」
 春乃は訝しがった。
「理事長を退任した。よって華櫻の件は私の手が離れたことになる」
「何ですって!」
 思いがけない陸海の切り返しに、予定を変更しなくてはならない。
 今夜でケリをつけるつもりでいたが、陸海から離れてしまったら一からやり直しだ。
 陸海の時と同じ攻め方をしても時間を浪費するだけだ。効率よく、ここからチェックメートするにはどうしたらいいのだろう。
 春乃はフル回転で作戦を練り直す。
「さて、どうする?」
 嘲笑うように陸海が聞いてくる。
 それが春乃の癇に障る。
 いっそうのこと常識を捨ててしまおうかと春乃は思った。今までまどろっこしくても常識の範囲で攻めを展開していたが、それらを捨ててしまおうかと。
 だか、それは最後の手段だ。他に打つ手がなかったら、それで華櫻の土地を取り戻す。
「さぁ、どうする?」
 追い詰めるように陸海が聞いてくる。
 春乃は静かに対峙していた。
 風は梢を打ち鳴らし二人を包んでいたが、侵入者の音も運んできた。
 春乃の方が先に気づき、校舎の方へと視線を向けた。それにつられて陸海が見やると、一人の女性が姿を現した。
 春乃と瓜二つの春菜だ。
 陸海ほどではないが、春菜も疲れた顔していた。それは儚げな雰囲気であった。
「春乃。もう、止めてちょうだい…」
 声を絞り出し、娘に懇願した。
「馬鹿なこと言わないで。桜城家は華櫻の土地を守らなくてはならない」
 ゆるぎない声に、春菜は悲しそうな目を向けた。
 その眼差しは、春乃の心に届かない。
 かえって桜城家の在り方を理解していないことに腹立たしさが募り、同じ桜城家の血を引いていることに疑問を感じた。
「いいのよ。私の代までで十分よ。春乃は自由にしていいの」
「お母さまは全然わかっていないのね」
「わかってないのは春乃の方だわ。悪しき習慣だって気づいていない…」
 春乃は大きなため息をついた。
 わかっていたとはいえは、あきれ返って言葉が出てこない。常々、娘の言動から目を逸らしている節はあったが、ここまで過去の言動を否定されていたのかと、これが母親なのかと思うと、今回の件も気をつかって常識的な範囲で進めていたのが阿保らしく思える。無駄な努力をしたものだ。
「お母さまには悪しき習慣に見えるのでしょうけど、私には日常なのよ。気づいていないとかの問題じゃないの。私が見ているもの、聞こえているものが、周りに見えないし聞こえないから気づかっているのよ。それに気づいていないのが、お母さま。ホント、桜城家の直系なのに素質がないなんて、お祖母さまもさぞかし苦労したことでしょうね」
 春乃と春菜では見ているものが違う、聞いているものが違う。だから同じ桜城家の血を引きながら理解しあえないのかもしれない。
 祖母の判断は正しかったと、春乃はつくづく思った。
「違うの! 縛られて欲しくないの!」
「何が違うのかしら? もっとも何を言ったところで、見えているものが違うから平行線のままでしょうね。それも気づかなくて?」
「確かに私には見えないし聞こえないわ。でも、貴女の母親なの。貴女のことを大切に思っているの。貴女には幸せになって欲しいの。貴女の子供にも、孫にも、幸せになって欲しい。誰かが断ち切らないと子孫代々、縛られ続ける。桜城家にも桜塚家にも縛られて欲しくない。春乃には、いにしえに縛られず、自由に生きて欲しい!」
「全然わかっていないのね。お母さまはいつもそうよ。私の言葉を信じたことなかったわ。いつも否定していた。いつまでもそんなこと言う私を気味悪がっていた。だから、近寄らなかった。私のことを守ってくれなかった。守ってくれたのは、いつも桜よ。お母さまじゃないわ。たとえ見えなくなっても、聞こえなくなっても、私を守ってくれた桜たちを、私は守る!」
 春乃は宣言すると陸海に近づいた。



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by 1000megumi | 2007-11-24 17:26 | 小説 桜幻(完結)

桜幻 15

 それから二週間後には、週刊誌にデカデカと記事が載っていた。
『陸海商事、ヤクの運び屋に転落か?』
 社員が輸入品に混ぜて薬物を運んでいる、売人として売りさばいている社員もいるという内容が、商談している様子の写真とともに掲載されていた。手元の拡大写真は、粉末らしきものが入っている袋を渡しているところがしっかりと写っていた。一部の社員とはいえ組織化されているようで、上層部も深くかかわっているようだと締めくくっている。

 春乃は記事を読んでほくそ笑んだ。
 社員が渡しているような解説になっているが、実際には社員が受け取ろうとしている写真だ。
 酔いに任せて受け取ってしまった者もいるが、キッパリ断わった者もいる。受け取ってしまったものはヤクザの餌食になることだろう。
 何人が人生を狂わせることになるのだろうか。
 絵図を描いた春乃の心には痛みはなかった。
 春乃にとって桜城家が最優先である。あの土地を守ることが最大で最低限の、桜城家の跡取りとしてするべきことである。
(あの土地は守らなくてはならない。眠りを妨げないためにも…)
 校舎裏の桜たちに思いを馳せた。

 陸海は疲れていた。
 陸海も陸海グループも不運、不祥事続きである。
 春乃とのラブホテルでの密会は罠だったらしく、陸海は脅迫されている。脅迫されるようなことは何もなかったが、写真からそうとしか見えない。その写真は週刊誌に出回っているらしく、買い取れと話がいくつかあった。
 他には総会屋の存在。これは脅迫元と同じであろう。M&Aの動き。データ流出の疑い。
陸海商事社員による不祥事。陸海建設は訴訟を起こされ、マスコミに取り上げられている。秘書はダブルブッキングし、相手に迷惑をかける。
 不祥事があるせいか仕事がうまく取れなくなっている。この二ヶ月で、グループ利益が三十四パーセントも落ちていた。
 政治家にも見放されている節がある。誰かの根回しがあったようだが、これも脅迫元と同じかもしれない。
 全てが春乃の起こしたこととは思えないが、華櫻にヤクザの息子がいることは調べが付いているので、可能性はゼロではない。
 もし、華櫻の土地に手出さないと言えば、この一連の不運・不祥事から解放されるのだろうか。
 もう、疲れたと、全てを放り出してしまいたくなる。

 華櫻では春乃が杉原と付き合っていると噂が流れているらしく、温室に杉原が来ると皆そそくさと出て行ってしまう。
 気をつかっているのか、巻き込まれたくないのか、微妙なところだろう。
 春乃には最強と言わしめた笑顔が絶えることがなかった。
「ここまで見事にパーッと消えられると嫌われているような気がしてくるな」
「今まで好かれていたと思っていたの?」
 春乃は上機嫌で紅茶を入れていた。
「……今後の予定は?」
 杉原の言う今後とはもちろん陸海のことだ。
 付き合っているという噂が流れているが二人の関係は変わることなく、首謀者と共犯者の関係である。
「いいものが手に入ったのよね~」
 カップ越しに見つめる春乃の笑顔は恐いくらい妖しく、杉原は背中にゾクゾクと悪寒が走り冷や汗が吹き出た。
「どうする気だ?」
 恐いと思いながらも聞かずにはいられない。
 かかわってしまった以上、最後まで見届けるべきであろう。いまさら、春乃が恐ろしいからと降りるわけにいかない。きっと春乃がそれを許さないはずだ。
 ヤクザと呼ばれる人間を幾人も見てきた。ボーダーラインにいる人間を、超えてしまった人間を幾人も見てきた。だから杉原はわかる。春乃は超えてしまっていると。そして、全てが計算されていると。
「チェックメートするわ」
 春乃の声は穏やかであった。


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by 1000megumi | 2007-06-22 16:29 | 小説 桜幻(完結)

桜幻 14


 気持ちを落ち着かせるように杉山は紅茶に手伸ばした。おもむろに一口飲むと、春乃は杉原の意図に気づき、椅子に座りなおして紅茶を飲み始めた。
「俺のハメたってのは、セックスしたって意味だったんだが…」
「私は罠に嵌めたって意味で言ったのよ」
「そっか。悪かった」
 謝ってから、違う意味でよかったと素直に言った。
 その言葉に含まれている意味を春乃は気づいているのだろうか。
 相変わらずな態度で受け流している。
「で、お願いの件はどうかしら?」
「――どーゆー絵図をかいているんだ?」
「とりあえず、恐喝してプレッシャーかけて、その後にマスコミに流す。ダメかしら?」
「このネタはそれでいいかもしれないが、全体の絵図は?」
「内緒」
「おい、それないだろう。協力者だぞ」
「どれも似たようなものよ。身動き取れなくなるように、マスコミやネット使って情報を流す。陸海だけではく、その周りも含めてね。いずれ陸海の協力者がいなくなって孤立するでしょう」
 当たり前のように言うが、ネタがそれだけあるのだろうか。
 疑問であったが、ネタは作ろうと思えばいくらでも作れる。今回のネタとて春乃が嵌めたのだ。陸海は隙が多いってことだろう。
「わかった。協力するから一人で抱え込まないで相談しろよ」
「ありがとう」
 素直に礼を言う春乃は、最強と言わしめた笑顔であった。

 じっと蘭丸は春乃を見つめた。
 いつからこんな悪事を働くようになったのだろうか。
 頼まれたからといって協力している蘭丸も十分に悪事を働いている。しかし蘭丸は、春乃のことを憂いても、自分のしていることに罪悪感はなかった。
 もともとの性格もあったが、警察内部が腐っているのも良心を咎めない一因である。
「陸海がこんなことに嵌まるとは思えないけどな…」
「嵌めるのは陸海じゃないの。だから、大丈夫」
「そうか…」
「この間のことで警戒しているから、違う人にするの」
「ターゲットは決めてあるのか?」
「商事の社員なんてどうかしら? ほら、海外出張も多いでしょうし、出張先で好奇心で手を出して…っていうのはどうかな?」
「無難な展開だ」
「でしょ?」
「どうやって嵌めるんだ?」
「杉原さんに頼んだの」
「杉原?」
「そう、華櫻の生徒で富樫組系列組長の息子」
「大丈夫なのか? ヤクザが絡んだら厄介だぞ」
「いいのよ。陸海から毟り取れるだけ毟り取ればいいわ。それにね、この間ので恐喝してもらっているから、すでにかかわっているのよね」
 知らないうちにどんどん進めてしまう春乃が心配になってしまう。違う道をずんずん進んでいるような、手が届かないところに行ってしまうような気がして、自然とため息がこぼれた。
「頼んだのは持ってきてくれた?」
「ああ。くれぐれも好奇心で手を出すなよ」
 念押ししてから蘭丸は内ポケットから紙袋を取り出した。
 受け取った春乃は中を確認した。
 小さなビニール袋に入った白い粉と錠剤、茶葉のような黒茶色した塊。
「これって何?」
「錠剤は合法ドラックとして大量に出回ったヤツだ。アンフェタミン系だから覚せい剤の一種だな。今は流通していないようだが…」
「で、こっちは?」
「ハッシュ、麻薬だ。粉末はヘロイン。それは純度が高いぞ」
 選り取り見取りだろうと、悪びれる様子もなく言う。
 蘭丸が持ってきた薬物は警察が押収し保管しているものだ。それを春乃に頼まれて掠め取ってきた。
「保身は用意してあるのか?」
 蘭丸の質問に春乃は肩を竦めただけで答えなかった。
 その様子に蘭丸は不安になる。
 杉原が陸海に喰らい付いているときはいいが、春乃にまで食指を伸ばされたらたまらない。
 春乃は考えているのだろうか。
 ヤクザが絡むとどうなるか。骨の髄までむしゃぶりつかれることを…。
 幕引きはどうするつもりだ?
 蘭丸には春乃が何を考えているのかわからなくなっていた。



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by 1000megumi | 2006-11-27 15:16 | 小説 桜幻(完結)

桜幻 13



「俺が用あるんじゃなくて、俺に用があるんだろ」
 誰ともなく、春乃を見た。
「デートにお誘いしたの」
 紅茶のカップを片手ににっこり笑顔で答える。
「おまえらいつからそんな関係になったんだッ」
 急き込むように質問をされたが、春乃は笑顔のまま動じなかった。
「これからなろうとしているのよ。邪魔しないでくれると嬉しいなぁ」
 マジマジと二人を見比べ、何か言おうとするが誰も何も言わなかった。言わなかったというより、言えなかったが正しいのかもしれない。
 春乃の笑顔ほど恐いものはない。
 華櫻で出会って一年半。その間に春乃の恐ろしさを何度か見てきている。
 こういうときの春乃に逆らわない、かかわらないのがいいだろう。
 そそくさと皆が帰ってしまった。
「おまえのその笑顔は最強な気がするぞ」
 春乃は何も言い返さずに、笑顔のままだ。
(これはマジで恐ろしいことを考えているかもしれない)
 杉原は少し不安を感じたが、ここに来て何も聞かずに帰れることないだろうと思い直し、用件を早く済ませることにした。
「で、用件は?」
「ちょっと、お願いがあるの?」
 これも笑顔付き。
「どんな?」
「お父さまにお願いして、陸海を恐喝して欲しいの」
 世間話をするようにさらっと言い流した。
 杉原の父親はヤクザである。広域暴力団富樫組系列の組長をしている。
「ダメかしら?」
 お願いされても杉原にしてみれば虫が良すぎる話で、ため息しか出てこなかった。 
「おまえさぁ。前に自分が何言ったのか覚えているのか?」
「あら? 私がジコチューだって知らないの?」
 全然気にすることなく、ニコニコしながら再度お願いする春乃。
「ネタはあるのよ」
 何を言ったところで押し切られるのが目に見えている。
 惚れた弱みってヤツだ。
「どんな?」
 仕方ないので聞く姿勢を見せると、春乃は嬉々として鞄から封筒を取り出した。
 渡された杉山は中身を確認した。
 写真が数十枚。
 それは、陸海がラブホテルらしき建物に入っていく姿や、その相手と思われ制服を着た少女の姿。
「陸海ってロリだったのか?」
 それに答えることなく、春乃は笑顔で杉山の反応を見ていた。
 写真は室内の様子も写している。
 いかにもな室内、ベッド。入り口に突っ立っている陸海。ベッドに腰掛けている少女。ツーショット。どれも服を着ていたが、だからといって十分に怪しい写真である。
 ラブホテルから出てくる写真もあった。
 その中の一枚に杉原は気づいた。
「おい。この女って…。まさか春乃、おまえか?」
「あれ? バレた? 顔が写らないように撮ってもらったんだけど…」
 あっけらかんと白状する春乃は何とも思っていないようである。
「陸海をハメたのか?」
「うん。嵌めたよ」
 杉原は春乃を見たまま固まった。
 ハメたのか? 嵌めたよ。この『はめた』という言葉が、発音は同じでも違う意味があることに気づいているのだろうか。
「どーゆーつもりなんだよッ!」
「どーゆーって、これなら脅しのネタに使えるでしょ?」
「だからって、するなッ!」
「いいじゃない、別に」
「よくないッ!」
「まったく…」
 春乃はあきれたように杉原を見た。
 何をそんなに杉原が怒っているのか、さっぱりわかっていない。
「こんなことするくらいなら、俺に言え。女くらい調達してやる。春乃が相手する必要なんかねぇよッ」
「えーっ。無理よ。桜城家因縁の駆け引きだもん」
「因縁だか何だかしらねぇが、身体売る必要がどこにあるッ。やりようってもんがあるだろッ」
「…………」
 春乃は杉原に言われたことを反芻した。
 そして、勢いよくバンッ! とテーブルを叩くと前のめりになって詰め寄った。
「売るって何よっ! 身体売るですって! どっから湧いてくるのよ、その発想!」
 春乃の勢いに押されて仰け反る杉山は、どっか間違っているぞ…と思った。
(互いに勘違いしているのか…)



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by 1000megumi | 2006-01-16 20:45 | 小説 桜幻(完結)

桜幻12



 その三日後。
『陸海建設工業と建設大臣、癒着問題発覚か?』
 週刊誌で大きく取り上げられた。

 木曜日の八時を五分過ぎた頃、陸海の携帯電話が鳴り響いた。
『ごきげんよう、陸海社長』
 涼やかな声が流れた。
「何か用かな? 私はいろいろ忙しくてね」
『そのようですね。週刊誌に取り上げられたようですけど、その後、特にマスコミの動きはなかったみたいですね。お金をバラ撒くのに忙しそうで、一段落ついたのですか?』
「用件を…」

 春乃が指定した場所はホテルだった。しかし、ホテルと言っても、ラブホテルだ。
「密談するのにはもってこいでしょ?」
 前回同様に華櫻の制服姿の春乃は、中央にある大きなベッドに腰をかけながら言った。
「完全にプライバシーが守られているから…」
 そして、くれぐれも押し倒さないでね、と付け加えた。
 娘に対して――と思ったが、そのことは当然言わず、用件だけを聞いた。
「知っているでしょ? 華櫻のことです」
 どのような脅しにも陸海は屈しないつもりだ。そのためにも、あちこちに手を回しておいた。雪村との関係の証拠は処分し、証拠がなくても疑いを流されるのは十分マイナスになるので、マスコミには金を握らせている。
 脅迫のネタになりそうなのは、出来るだけ処分した。
「単刀直入にいいます。華櫻の土地は諦めてください」
 緊張のかけらもない口調で春乃は言った。
「この話は、水ノ宮にとってメリットになるのは一つもありません。だから、華櫻との合併は不必要です。陸海社長、母との契約を破棄してください」
「出来ない相談だね」
 陸海はドアの前に立ったまま、そこから一歩も動いていなかった。
「雪村との関係は切りましたか?」
「――――」
「あれで終わりだなんて考えていませんよね? それとも子供の悪戯とでも思っているのですか?」
「君がそんなに甘い人間だとは思っていないよ」
「甘い人間じゃない、ねぇ…。どうかしら?」
「探り合いは止めよう」
 春乃は肩をすくませただけだった。
「――君は、何を望んでいる?」
「何を望んでいると思います?」
「探り合いは止めようと言ったはずだ」
「確かに言いましたね。だけど、私は従うとは言っていませんよ」
 じっと春乃を見てつめていた。逸らすことなく、隙を与えないためにも、春乃の隙を見つけるためにも、陸海はじっと見つめている。
「恐い顔だわ」
 すくすく笑いながら言う春乃は、どうみても面白がっているようにしか見えない。
 それは、挑発であった。
「――華櫻との契約を破棄すると、君にどんな得がある。それこそメリットがないだろう」
「メリットはない。そう、ありませんよ。――せっかくですからはっきり言いましょう。私は華櫻の土地を他の者に渡したくないのです。ただ、それだけです。貴方も言ったでしょう。桜は日本人の心。華櫻の桜は素晴らしいと」
「私とて同じだ。あんなに素晴らしいものを手放したくない」
「どうしても?」
「ああ、どうしても」
「――交渉決裂ですね。仕方ありません。今回は諦めましょう。近いうちにプレゼント差し上げますから、楽しみにていてください」

 小春日和ののどかな昼下がり。
 花に囲まれ紅茶を飲む生徒達。
 テーブルには幾種類もの甘いお菓子。
 不良と呼ばれている少女たちも、ここではただの少女。
 笑い声は絶えず、おしゃべりに花を咲かせている。
 それもここは春乃の作り出した空間だからだろうか。
 虚勢を張らず、安心して素顔を晒していた。
 しかし、闖入者が現れると、楽しげに笑っていた少女たちの表情は一転する。
 温室の扉が開くと、一斉にキツイ視線が投げかけられた。
「今日もずいぶん賑やかだな」
 杉山は投げかけられた視線を気にすることもなく近づいてきた。
「何の用だよ」
 凄みを利かせて一人の生徒が聞いてきたが、軽くあしらうように杉山は意味深な笑みを張り付かせていた。



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by 1000megumi | 2005-09-23 20:53 | 小説 桜幻(完結)

桜幻 11



 それにしても何かが引っ掛かる。
 彼女は私にどうしろと言いたいのだろうか? 彼女は何を望んでいるんだろうか?
「君は言ったね。華櫻と契約を済ませれば何も心配することはないと。つまり、華櫻と契約を済ませれば、私の好きにしていいということだ。違うかね?」
(今日はこれで終わりだな)
 春乃は外を見たまま口の中で呟いた。
 陸海も必死ね。そんなにお母さまを助けたいのかしら? 私はお母さまがどうなろうとかまわないけど…。
「今日はこれで失礼します」
 颯爽とドアまで歩き、芝居掛かった仕草で立ち止り振り向いた。
「近いうちに素晴らしいプレゼントをお届けしますわ」
 春乃は蠱惑的な微笑を張り付かせていた。

 二日後の午後三時頃。
 速達と赤いハンコを押された郵便物が陸海の元に届いた。
 表には細い几帳面な字で、住所と会社名、それから陸海代表取締役殿と書かれてあった。
 裏には『桜』と書かれていた。
 封筒の中身は書類だった。その表紙には『雪村明博に関する報告書』と書かれており、その内容は陸海との係わり合いを重点的にまとめてあった。雪村は現在の建設大臣である。陸海と雪村はあることが発覚すれば、仲良く塀の中へ押し込められる関係だ。
 一通り目を通した陸海は書類を引き出しにしまうと電話に手を伸ばした。
「狭間を寄越してくれ」
 すぐに狭間はやって来た。
「お呼びでしょうか?」
「先日の少女を覚えているな?」
「桜城春乃ですね」
「そうだ。悪いが調べてくれ。彼女の交友関係は特に念入りに」
「わかりました」
「狭間。このことは内密だ。いいな」
「はい」
 直立不動で答える狭間に一つ頷くと、狭間は目礼して部屋を出て行った。
 陸海は引き出しから先程の書類を取り出し、また読み始めた。
 すると、内線のコールが鳴り響いた。
 三回目で受話器を取り上げた陸海は、それを聞いて一瞬顔色を変えた。
『いかがいたしましょう』
「つないでくれ」
 何の迷いもなく陸海は言った。
 後に引けない。
 陸海にはこれだけは譲れないものがあった。
 それを守るために、自分は動き出したのだから、たとえ人に何と言われようと、たとえどんなことになろうと、止められない。
 敵対するのが自分の娘であっても、愛しいあの人の娘であっても。
(自分は戦うのだ)
 相手を子供だと思わない。自分の娘とも。情けをかければ、こちらがやられる。相手は自分と同じだ。弱いところを平気で攻める。弱点を見逃すほど甘くない。これは遊びじゃない。ビジネスだ。
『陸海社長ですか?』
「ああ、そうだ」
『プレゼントは気に入っていただけましたか?』
「悪いが私は忙しい身でね。用件だけいってくれないか?」
 くすくすと笑い声だけがした。
 小バカにしているような、とても楽しそうな笑い声。
 その声が止むと。
『陸海社長。私がどこから電話をかけているかわかりますか?』
「――――」
『ここからは社長の姿がよくみえますわ』
 暑くもないのに陸海の額に汗が浮かんできた。
『ただし、後姿ですけど…』
 向かいのビルか…。
 向かいのビルのどこにいる。
『狭間には私のことを調べるように命令したようですけど、無駄なことをしますね』
「――――」
『それより、またお会いしたいのですが、よろしいですか?』
「――――」
『だんまり、ですか? それはそれで私は別にかまわないけど…。陸海社長にはお金と地位と権力がありますが、それを失ったら、貴方の大切な人を守ることが出来なくなると思いますよ。よく考えてください。――また、お会いしたいのですが、都合の方はいかがですか?』
「いろいろ忙しくてね。来週の木曜日ならいくらか空いているが」
『来週の木曜日ですね。時間は?』
「八時過ぎなら…」
『八時過ぎですね。携帯電話はお持ちですよね。来週の木曜日、八時過ぎに連絡入れます。ごきげんよう』
 陸海の返事を聞かずに、電話は一方的に切れた。


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by 1000megumi | 2005-08-26 20:29 | 小説 桜幻(完結)