オリジナル小説&エッセイ


by 1000megumi
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桜幻 7



 春乃が話を作っているとタカをくくっていた蘭丸だが、実際に裏庭に金庫が転がっているのを見て、頭を抱え込みたくなった。
「いつだ?」
「先週の木曜日よ」
「所轄に連絡はしたのか?」
「しないわよ。身内の恥だから、お母さまは嫌がると思うし…」
「中身は?」
「翌日、貸金庫に預けたわ」
「春菜さんは知っている?」
「うーん。知らないかもしれないし、知っているかもしれないし…」
 蘭丸は苦笑いしながら六十キロ近い金庫を春乃の指定する位置に運んだ。
「さすが男ね~」
 パチパチと拍手をして感心する春乃。
 だけど、すぐに顔つき変わった。
「さて、サクサクと白状してもらいましょうか」
「恐いな~」
「あら~? 蘭丸次第でしょう?」
「わかった、話すよ」
 両手を挙げて降参のポーズを取る蘭丸に早く話せと春乃はせっついたが、所轄が先だと先延ばしにされた。
 それとなく身内の犯行だと臭わせながら、所轄でも交番でも見回りを強化するように話す蘭丸の隣で、困った申し訳なさそうな顔と笑顔を巧みに作り上げた春乃は、警官を骨抜き状態にしていた。
「魔性の女に見えたぞ」
 二人お気に入りのレストランで注文をすませてから、しみじみと蘭丸は言う。
「ホステスになれば売れっ子になるんじゃないのか?」
「じゃあ、キャバクラでバイトでもしようかな~」
 しれっと春乃は答える。
 身包みはがされそうだと苦笑する蘭丸に、春乃は真面目に言った。
「華櫻の生徒にバレちゃって…。蘭丸、情報ちょうだいよ」
「情報って言ってもなぁ。何もないよ」
 じっと蘭丸を見つめると、春乃はキッパリ言い切った。
「ウソをついている」
「ついていないよ」
「ついているわ」
 静かに、しかし力強く言う春乃の迫力に、たじろぎそうになる。
「ないないない…」
「蘭丸ってポーカーフェイスが下手よ」
 あまりな指摘に言葉が詰まった。
 蘭丸は決してポーカーフェイスが下手なわけではない。一々顔に出ていたら刑事は務まらず、同僚の中でも抜きん出て読めないと言われている。
 それなのに春乃に通用しないのは刑事以前からの長い付き合いで、春乃が見抜ける人間だからだろう。
 互いに互いの性格はよく知っている。
 仕方なく、蘭丸は白旗上げることにした。押し切られるのは時間の問題で、無駄なことは省略するに越したことはない。
 しかし、悪足掻きはしてしまう。蘭丸にとって、すんなり話せる内容ではないのだ。
「わかった。話せばいいんだろう?」
「そうよ。チャチャッと、白状してね」
 期待に満ちた春乃の視線は痛かった。蘭丸が持っている情報は、知ったからといって役に立つようなものには思えないからだ。それどころか、いくら春乃でも、ショックを与えることであろう。そんな内容である。
「春乃。人間誰にだって知られたくない過去の一つや二つはあるんだ」
「前置きはいい」
 おもむろに話し出した蘭丸に、春乃はそっけなく言う。
「誰にでも青春時代があって、若いときは特に間違いを起こすものだよ。後で後悔することもある」
「だから、前置きはいい」
「若いときの過ちなんて、風邪みたいなものだ。いつでも恋愛はちょっとしたきっかけで、それが――」
「何度も同じこと言わせないでよ。前置きはいいから、本題に入れっ」
 有無を言わせない迫力で、蘭丸の長くなりそうな前置きを遮った。
「あのな、春乃。おまえさ、そのー、なんだな…」
 ため息をつきながらも、話そうと試みるが言葉はうまく選べなくて、しどろもどろになってしまう。
 蘭丸らしくない歯切れの悪い言い方にムッとしながら、春乃は強く催促した。
「スパッと言ってよ。スパッと」
「わかった」
 そう言った蘭丸に胡乱な視線で春乃は応えた。
 今の蘭丸は当てにならい。のらりくらりと逃げようとするのではないかと警戒をあらわにする。
「春乃。おまえは自分の父親のことを知っているか?」
「私の医学上の父? 知っているわよ、そんなの。陸海でしょ?」
 春乃の言葉に蘭丸の動きは止まった。


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by 1000megumi | 2005-06-13 22:31 | 小説 桜幻(完結)