オリジナル小説&エッセイ


by 1000megumi
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悪女 2

 取調室は湿った匂いが漂っていた。それだけで気が滅入りそうになる。
 綺湖は容疑者の前に立つと、柔らかな声音で言った。
「こんにちは。これから私が担当することになりました。南条綺湖です。むさ苦しいのに囲まれるのは嫌でしょう? 男性出入り禁止にしたの。気楽にしてね」
 やつれた顔で、綺湖を見上げていた。
 何も、言葉はない。
 机を挟んで綺湖は椅子に座った。
「何から聞こうかしら? 今まで聞かれたことと同じ事を聞くと思うけど、気を悪くしないでね。答えたくなかったら、答えなくてもいいの。黙秘権というものがあるから…」
 伸びた前髪が陰を作り、表情をわかりにくくしている。
「まず、名前は?」
「──和田奈津美」
「奈津美ちゃんね、年齢は?」
「──十七」
「高校二年生ね」
「……」
「部活はしていた?」
「──吹奏楽部」
「何を担当していたの?」
「──フルート」
「いいわね、フルート。友達はたくさんいた?」
「─それなりに…」
「仲のいい子は?」
「──いたけど…」
「何でも相談できた?」
「………」
「何でもってことはないか。秘密の一つや二つ、あってもおかしくないものね」
「………」
「──奈津美ちゃん。友達にも言えない、家族にも言えない、あなたの秘密、私に話す気ない? 少しは気が楽になるかもしれないわよ」
「………」
「もし、言ってもいいかなって思ったら、話せる範囲でいいから聞かせてね」
「………」
「質問の続きね。学校は楽しかった?」
「──部活は大変だけど楽しい」
 それから事件には触れず、奈津美の日常生活に関して質問し続けた。
 奈津美は淡々と、そして、時折楽しそうに話した。

 休憩を何度か挟んで、その日の取調べが終わると、笠間がせっかちに聞いてきた。
「どうだ? 落とせるか?」
「まだ、なんとも…」
「なんだぁ。おまえでも無理か…」
 どうしてこう、早急に答えを出したがるのだろう。綺湖が男だったら笠間の言い方も、変わっていたに違いない。
 男社会というより、個人の性格によるものだろう。しかし周りにいる男性は、心の狭い偏見に満ちた思考の持ち主が多く、綺湖はうんざりしていた。
 女というだけ、見下ろされる。
 女は、バカで、感情的で、理性がなく、図太く、そのくせ庇護される立場だと思い込んでいる。見栄えのいいほうがよくて、頭より顔で、顔より身体で、判断する。
 バカなのは、男たちのほうだ。
 その時女が、何を考えていたのか、何を感じていたのか、考えようとしない。
 男は、アホで、動物的で、理性がなく、多くのモノを要求する。繊細なフリして無神経で、自分たちの欲望を棚に上げて、男は外見より心だと豪語する。
「笠間さんは…」
「ん?」
 綺湖はイヤミが言いたくなった。
 たとえ通じなくても。
「カウンセリングの勉強をした方がいいですよ。もしくは、心理学を」
 あからさますぎて、効果覿面。
 笠間はムッと、口をへの字にした。



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by 1000megumi | 2006-12-27 16:29 | 小説 悪女(連載中)