オリジナル小説&エッセイ


by 1000megumi
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桜幻 2



「ハルッ!」
 校舎の裏に広がる桜林はいろいろな桜が植えてある。春に咲く桜でも時期が微妙に違うし、春以外の季節に咲く桜もある。一年中どこかで桜が咲いているといっても過言ではない。
 桜を愛でる春乃は声をかけられた。
「ハルッ」
 頭を金髪にした、制服をだらしなく着込んだ男が駆け込んできた。
「ハル。益子が北高に拉致されたッ」
(はいはい、北原高校に人たちに誘拐されたのね。それで、私にどうしろって言うの?)
 春乃は振り向きもせず、桜を見上げている。
 男は春乃の無言に苛立ったらしく、声を荒げた。
「ハルッ!」
「うるさいわね。北高に益子たちが捕まったんでしょ? それで?」
「! それでって、捕まったんだよッ」
「本間、言いたいことは完結に言いなさい」
「言いなさいって、おまえは冷たいヤツだなッ!」
 わかりきったこと聞くな。冷たいのは誰でも知っているぞ。
 口に出さないが目で言い返す。
「助けないのかよ」
「本間が助ければいいことでしょ?」
「オレがぁ? ハルが頭だろ? 指揮取れよ」
「いつ、誰が、頭になったの?」
「おまえなぁ――」
「私はそれどころじゃないの。死活問題抱え込んでいるのよ。私のこと巻き込まないでちょうだい」
「――――」
 本間は何か言いかけたが、プィッと、校舎の方に戻った。
 ちょっと言い過ぎたかな? まっ、いいかぁ。言っちゃたもんは取り戻せない。こぼれた水だもん。仕方ない。
 益子も気になるけど、所詮ガキのケンカ。死活問題のほうが、重大問題だ。
(でもなぁ、蘭丸と連絡取れないんだし…)
「チッ!」
 舌打ちすると春乃は校舎へ向かった。
 冷たいといっても仲間を見捨てるほど冷たくはないのだ。

 翌朝、春乃が桜を眺めていると、一つ年上の杉原がやって来た。
 杉原は何も言わずに春乃の隣に立ち、同じ桜を見上げていた。
 春乃はホームルームの始まる二十分前には学校に来ている。教室に鞄を置き、桜林を散策する。晴れている日はもちろん、雨の降っている日も。五分前の予鈴が鳴ると教室に戻る。
 予鈴が鳴り教室に戻る途中、杉原は春乃に話しかけてきた。自分の世界に没頭する春乃を知っているから、予鈴が鳴るまで話しかけるような無粋なことはしない。
「呼び出しかけといて、連絡くらい入れろよ」
「――――」
 昨夜の救出作戦のもしもの時に備え、念のために人が動かせるように杉原に頼んでおいたのだ。皆が計画通りに動き、無事に終わったのだが、そのことを連絡しなかった。
「心配してたんだ」
「どこにいるのか、見当つかなかったから…」
「ウソつけ」
「ごめんなさい」
 春乃は素直に謝った。
「まぁ、いいよ。思いがけない情報を仕入れたから」
 予感。
 そう、予感としかいえない。なぜか、なんとなく、それがわかるような、厭なことが起こるような、奇妙な気分。何かがやってきて、そして――、だから、覚悟を決めるような、そんな気持ちの切り替えを無意識にやってしまうような…。
(出来れば、まだ聞きたくない。まだ、カードが揃わないから)
 でも、聞くことになる。だぶん、これも予感。目に見えない何かが、じわりじわりやってきて、体に絡みつくような、厭でも無理矢理それを見て、それを聞いて…。
「春乃。正直に答えろ」
 あぁ、聞きたくない。まだ、その時ではないから、だから…。
(言わないで)
 全てが片付くまで何も言わないで。何も聞かないで。まだ、ダメ。まだ、何も出来ない。だから――。
(――知らないふりして)
 でも、いくら願っても無理だろう。杉原は春乃に言うのだろう。杉原は春乃に問うだろう。
 知っていたのか、何故なのか、どうなるのか。
 彼は春乃を責めるだろうか?
「この華櫻がなくなるって、本当か?」
 杉原の声は桜に吸収される。


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by 1000megumi | 2005-05-02 10:39 | 小説 桜幻(完結)