オリジナル小説&エッセイ


by 1000megumi
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桜幻 1



「――――」
 あまりにも突拍子なことを言われたので、春乃は絶句した。
 気を取り直して。
「何ですって?」
「おまえの華櫻が吸収合併されるのさ」
「どこに?」
「水ノ宮学園」
 蘭丸はあっさり答えた。
「何で水ノ宮学園が華櫻を?」
「俺が知るわけないだろ?」
 蘭丸の答えに春乃は綺麗な眉をクィッと上げ、もっとマシな返事をしろっという意味合いのシグナルを送った。
「ガセネタじゃないの?」
「水ノ宮と華櫻じゃ、ガセネタの組み合わせにならないだろ?」
 嫌そうに眉間にシワを寄せる春乃。
 確かにガセネタにもならないような組み合わせと言えた。
 七年前に出来たとはいえ、有名私立水ノ宮学園の高等部と、歴史はあるが今は落ちぶれ、不良の巣窟・ヤクザの予備軍学校といわれている私立華櫻高等学校との組み合わせ。
「噂になっているのだから、本当なんだろ?」
「蘭丸の考え方はわからなくもないけど…それにしても――水ノ宮の理事たちは何やっているのかしら? バカじゃない? 有名私立校だって言うのに、評判落とすだけじゃない。私だったら、もうちょっとマシなところにするわっ!」
「おまえの視点って変わっているな」
 春乃はニヤリと笑い、心の中で答えた。
(ありがとう、蘭丸。でも、あんたも十分変わっているわよ)
 桜城春乃。只今、十六歳の高校二年生。童顔の愛らしい顔立ちに、大人びいた目。サラサラするストレートの髪の毛が腰まで覆い、華奢な感じがするほど体の線が細い。
 桐島蘭丸。二十七歳の独身。蘭丸は春乃の祖父の従兄弟の子供。つまり、春乃の母親の再従姉弟である。もともと子供の頃から可愛げのなかった蘭丸は、今は二十七歳という年齢が中身に追いつき、年齢相応に見えるようになった。縁なしのメガネが似合い、外見は秀才・エリートのイメージが漂うが商社マン風だが、中身は全然違う。不真面目でおちゃらけている。その性格で、刑事をやっているのが不思議だと思わずにはいられない。
 春乃と蘭丸は年齢が離れているが結構気が合い、お互い遊んだり遊ばれたりしている。蘭丸は暇を作っては、家庭教師という名目でちょくちょく桜城家に顔を出している。春乃にとって蘭丸は、勉強を見てもらい、遊んでもらい、買い物に付き合ってもらい、時々貢いでもらうありがたい存在である。
 この日も、前々から狙っていたバックを買ってもらい春乃は気をよくしていた。
 春乃の通っている華櫻高等学校は名前の通り桜の学校である。こんな言い方はおかしいが桜の学校が一番わかりやすい。門から校舎に伸びる桜並木も、校舎の後ろに広がる桜林も春には一斉に花が咲き見事である。この学校唯一の自慢が桜。その桜だけが自慢の学校は桜城家のものである。春乃の母親、桜城春菜が理事長。初代は春乃の曾々祖母。学校も桜城家も長女が受け継いできている。一人娘の春乃も近い将来やりたくもないけど、母親のやっていることを継がなければならない。別に親の職業を継がなければならない法律はないのだから、継がなくてもいい。だが、春乃にもいろいろと事情というものがある。
 うまくやればボロ儲けできる商売だから。
 無理矢理納得している部分もある。
 しかし、今は立派な赤字経営。
 華櫻は八十五年の歴史を持つ学校で、初めは女子高であった。初代と二代目は、見事に動乱の時代を乗り越えたが、三代目・春乃の祖母は何をどう判断したのか、良妻賢母の方針を打ち出し、赤字経営に向けて第一歩を踏み出してしまった。女性が仕事に、世界に進出する世の中に変わってしまった数十年前から、良妻賢母は時代遅れで、そんな学校には生徒が集まらなくなる。生徒減少に伴い、赤字経営まっしぐら。そして、莫大な借金を残して六年前に三代目は亡くなり、四代目・春乃の母が理事長を引き継いだ。このままだとダメだと思った四代目は、華櫻女子高等学校から華櫻高等学校に名前を変え、共学にし出来るだけ自由にした。それも間違いの元だったのかもしれない。自由は混乱と廃退を招いた。悪名を轟かせるようになり、悪名はさらなる悪名を引き寄せ、ヤクザの予備軍高校と呼ばれるようになったのだ。
 春乃は五代目として救世者となる予定であったが、あくまでも予定だ。予定は未定、常に変わるもの。
 春乃にとって学校自体がなくなるのは、 面倒ごとが減ったくらいにし思わない。
 しかし、桜城家にとって大切なものがなくなるのを、黙って見ているわけにはいかなかった。


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by 1000megumi | 2005-05-01 09:45 | 小説 桜幻(完結)