オリジナル小説&エッセイ


by 1000megumi
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

桜幻12



 その三日後。
『陸海建設工業と建設大臣、癒着問題発覚か?』
 週刊誌で大きく取り上げられた。

 木曜日の八時を五分過ぎた頃、陸海の携帯電話が鳴り響いた。
『ごきげんよう、陸海社長』
 涼やかな声が流れた。
「何か用かな? 私はいろいろ忙しくてね」
『そのようですね。週刊誌に取り上げられたようですけど、その後、特にマスコミの動きはなかったみたいですね。お金をバラ撒くのに忙しそうで、一段落ついたのですか?』
「用件を…」

 春乃が指定した場所はホテルだった。しかし、ホテルと言っても、ラブホテルだ。
「密談するのにはもってこいでしょ?」
 前回同様に華櫻の制服姿の春乃は、中央にある大きなベッドに腰をかけながら言った。
「完全にプライバシーが守られているから…」
 そして、くれぐれも押し倒さないでね、と付け加えた。
 娘に対して――と思ったが、そのことは当然言わず、用件だけを聞いた。
「知っているでしょ? 華櫻のことです」
 どのような脅しにも陸海は屈しないつもりだ。そのためにも、あちこちに手を回しておいた。雪村との関係の証拠は処分し、証拠がなくても疑いを流されるのは十分マイナスになるので、マスコミには金を握らせている。
 脅迫のネタになりそうなのは、出来るだけ処分した。
「単刀直入にいいます。華櫻の土地は諦めてください」
 緊張のかけらもない口調で春乃は言った。
「この話は、水ノ宮にとってメリットになるのは一つもありません。だから、華櫻との合併は不必要です。陸海社長、母との契約を破棄してください」
「出来ない相談だね」
 陸海はドアの前に立ったまま、そこから一歩も動いていなかった。
「雪村との関係は切りましたか?」
「――――」
「あれで終わりだなんて考えていませんよね? それとも子供の悪戯とでも思っているのですか?」
「君がそんなに甘い人間だとは思っていないよ」
「甘い人間じゃない、ねぇ…。どうかしら?」
「探り合いは止めよう」
 春乃は肩をすくませただけだった。
「――君は、何を望んでいる?」
「何を望んでいると思います?」
「探り合いは止めようと言ったはずだ」
「確かに言いましたね。だけど、私は従うとは言っていませんよ」
 じっと春乃を見てつめていた。逸らすことなく、隙を与えないためにも、春乃の隙を見つけるためにも、陸海はじっと見つめている。
「恐い顔だわ」
 すくすく笑いながら言う春乃は、どうみても面白がっているようにしか見えない。
 それは、挑発であった。
「――華櫻との契約を破棄すると、君にどんな得がある。それこそメリットがないだろう」
「メリットはない。そう、ありませんよ。――せっかくですからはっきり言いましょう。私は華櫻の土地を他の者に渡したくないのです。ただ、それだけです。貴方も言ったでしょう。桜は日本人の心。華櫻の桜は素晴らしいと」
「私とて同じだ。あんなに素晴らしいものを手放したくない」
「どうしても?」
「ああ、どうしても」
「――交渉決裂ですね。仕方ありません。今回は諦めましょう。近いうちにプレゼント差し上げますから、楽しみにていてください」

 小春日和ののどかな昼下がり。
 花に囲まれ紅茶を飲む生徒達。
 テーブルには幾種類もの甘いお菓子。
 不良と呼ばれている少女たちも、ここではただの少女。
 笑い声は絶えず、おしゃべりに花を咲かせている。
 それもここは春乃の作り出した空間だからだろうか。
 虚勢を張らず、安心して素顔を晒していた。
 しかし、闖入者が現れると、楽しげに笑っていた少女たちの表情は一転する。
 温室の扉が開くと、一斉にキツイ視線が投げかけられた。
「今日もずいぶん賑やかだな」
 杉山は投げかけられた視線を気にすることもなく近づいてきた。
「何の用だよ」
 凄みを利かせて一人の生徒が聞いてきたが、軽くあしらうように杉山は意味深な笑みを張り付かせていた。



次へ

戻る

目次
[PR]
by 1000megumi | 2005-09-23 20:53 | 小説 桜幻(完結)