オリジナル小説&エッセイ


by 1000megumi
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桜幻 8



 唖然、呆然、愕然といったところか。蘭丸には春乃の答えが予想外でショックだったようだ。
 春乃の母・春菜が未婚の母で、医学上の父親が『どこの馬の骨かわからんヤツ』と親戚中に言われ、春乃の祖母の猛反対にあい、無理矢理引き裂かれてしまったとか。その類の噂は公然の秘密となっていたから、春乃も小さい時から知っていた。でも、いくらなんでも、名前まで知らないと、蘭丸は思っていたに違いない。親戚連中はいろいろ噂するが、肝心な相手の名前は一度も口にしたことはなかった。それは蘭丸も知っている。だから、春乃があっさり言ったのでビックリしたのだ。
「何で知っているんだ?」
「認知されているもん」
 ガックリ。
 文字道理うなだれた。
「まさかと思うけど、それが、気を遣って避けていた理由?」
 コクコクと蘭丸は素直に頷く。
(バッカみたいッ。たかが、そんなことで…)
 情けないっていたら情けないッ! 私がそんな女に見えるのかしら? 自分の出生を知って、『あぁ、私ってなんて不幸なんでしょう』みたいに、窓から夜空を月を星を見上げて嘆くような、そんな安っぽい馬鹿な女に…。ウゲェー、吐き気がする。私はそんな女じゃない。そんな何も知らないで、大事に大事に世間の俗世に触れさせないで育てられた子供じゃない。母親のふしだらさを聞かされ、存在しなくていい存在と言われ続け、ひねくれた性格で、そんな女から遠くに離れているのよ。いまさら、しかも蘭丸の前で、かわいこぶりっこして『知らなかったわ、父親が陸海なんて…。なんて皮肉な運命なんでしょう』とでも言えって? 『私どうしたらいいのかしら』蘭丸にすがりつけって? それとも、『そんなのウソよッ!』と取り乱せって? ケッ! 考えただけで胸糞悪いぜっ!
「蘭丸。まさかそれだけじゃないでしょうね?」
 ふつふつと湧き上がる怒りにまかせて、蘭丸を怒鳴りつけたくなったが耐えた。
(まだ、大丈夫。まだ、冷静でいられる)
 自分に言い聞かせて気持ちを出来るだけ落ち着かせた、が。
「悪いな、春乃。それがジョーカーだ」
 蘭丸のその言葉で怒りが弾けた。
 ぬぁにぃぃぃぃぃぃぃぃ――。
「ぶぁっかぁもんッ!」
 そこがレストランで、周りに店の人も客もたくさんいることを忘れ、後で恥ずかしい思いをするほどの大声で蘭丸を怒鳴りつけた。
「能無しッ! 役立たずッ!」

 殴り込みだ。
 そんな物騒な噂はあっという間に広まった。

 華櫻の温室でお気に入りの音楽をBGMに春乃が食後の紅茶を楽しんでいると、杉原がやってきた。
「水ノ宮に何しに行くんだ? 殴りこみか?」
 椅子に座りながら春乃に話しかける。
「殴りこみなんかしないわよ」
「だろうな。おまえはそんなガラじゃねぇもんな。殴り込みじゃなければ、何だ?」
「お話」
「相手にされんのか?」
「するわよ」
 じぃーっと考え込むように春乃の顔を見つめる杉原。
 どうゆう結論をだすのか。
「何か握ってんのか?」
 ごく普通の予想された結論だった。
 大体はそういう風に考えるだろう。ただの女子高校生が仕手グループの社長と張り合おうなんて考えないだろう。世間から見て、接点のない二人だから。
「ちょと、気になることがあってね。質問したいことがあるの」
「質問? それだけか?」
「そうよ。とりあえず、それだけ」
「なるほどね」
 疑わしい目で、春乃を見ていた。


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by 1000megumi | 2005-06-23 16:37 | 小説 桜幻(完結)